コム朝日記

廉価食パンについての哲学

全部取得条項付種類株式を用いたスクイーズ・アウト

① 既存の株式の全部を全部取得条項付種類株式とするための定款決議変更決議(会社466条・309条2項11号)→既存株主は全員,全部取得条項付種類株式の株主となる

  • 108条2項7号所定の事項を定める定款変更によって,当然に,既存の株式の全部が全部取得条項付種類株式となるのか?
  • ①決議の効果は,既存の株式の属性である「普通株」に加えて,2種類目の株式として全部取得条項付種類株式が「発行できる」状態になるにとどまるのではないか?つまり,この決議のみでは,株式の種類とその発行済株式数が,【普通株】=既存株式と同数,【全部取得条項付種類株式】=ゼロ,という状態が発生するにすぎないのではないか?

② 全部取得の対価となる新しい種類株式を設けるための定款変更決議(会社466条・309条2項11号)

③ 全部取得の決議(会社171条1項・309条2項3号)

 

*酒井・会社法を学ぶ56頁

94条2項類推適用(旧司昭62民1)

 甲は、乙に対し、甲の所有する土地Aの登記済証、実印等を預けて長期間放置していたところ、乙は、土地Aにつき、勝手に自己名義に所有権移転登記をしたのち、丙に対する自己の債務を担保するため抵当権を設定し、その旨の登記を了した。その後、乙は、土地Aを丁に売却したが、登記は、いまだ丁に移転されていない。

 右の事例において、丁が丙に対して抵当権設定登記の抹消請求をすることができる場合及びこれをすることができない場合について、理由を付して論ぜよ。

丁が信頼したものはなにか?

 丁の土地A所有権取得についての94条2項類推適用を考えるにあたり,丁が信頼したのは「丙の抵当権設定登記のある土地Aの登記」であるから,そもそも「抵当権の負担のない土地Aの取得」については丁の信頼を保護する前提を欠くといえる。したがって,丁が94条2項類推適用により取得しうるのは「丙の抵当権の負担のある土地Aの所有権」にとどまることになり,丙と丁とは対抗関係には立たない。

丙が抵当権を取得しなかったら?

 丙の抵当権取得につき94条2項類推適用の要件が満たされず,丙が抵当権を取得しなかった場合においても,丁の信頼対象は「丙の抵当権設定登記のある土地Aの登記」であって,信頼を生じていなかった「抵当権の負担のない土地Aの取得」の効果をもたらしえないとも考えられる。しかし,この場合には,「丁が取得する所有権は原則として制限付だけれども,丙が何らかの理由で権利取得できないときは別なのであって,丁は完全な所有権を取得できるのだ,と言わざるをえない」(貞友・99頁)。抵当権付の所有権しか取得できないという「マイナス方向への信頼」=「あるのにない」との信頼の場合には,「もともと所有権を得ようとしていた者に対して,完全な所有権を与えることには問題がない」(同)のであるから,信頼の限度でしか保護しないとする理由はない。したがって,丙が抵当権を取得しなかった場合には,丁は94条2項類推適用により,A土地につき完全な所有権を取得することになる。

 

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純粋補助事実の証拠能力

 純粋補助事実とは,自己矛盾供述と異なり,その内容において主要事実・間接事実に関わりがなく,もっぱら証明力を左右するにとどまるものをいう。例として,供述者の性格,能力,偏見,利害関係,目撃現場での所在の有無等が挙げられる。

【例】 証人Aの公判廷供述の信用性を争うため,弁護人は被告人とAとの間に利害関係が生じていた事実を立証する趣旨で,かかる利害関係を認識していたBへの電話による聴き取り報告書を証拠請求した。

 刑訴法328条により許容される証拠について,判例は次のように判示している。

最判平18・11・7

 刑訴法328条は,公判準備又は公判期日における被告人,証人その他の者の供述が,別の機会にしたその者の供述と矛盾する場合に,矛盾する供述をしたこと自体の立証を許すことにより,公判準備又は公判期日におけるその者の供述の信用性の減殺を図ることを許容する趣旨のものであり,別の機会に矛盾する供述をしたという事実の立証については,刑訴法が定める厳格な証明を要する趣旨であると解するのが相当である。

 刑訴法328条により許容される証拠は,信用性を争う供述をした者のそれと矛盾する内容の供述が,同人の供述書,供述を録取した書面(刑訴法が定める要件を満たすものに限る。),同人の供述を聞いたとする者の公判期日の供述又はこれらと同視し得る証拠の中に現れている部分に限られるというべきである。

  ここでは,①刑訴法328条が機能するのは同一人の矛盾供述の存在によって公判供述の信用性を減殺するために用いる場面に限定されること,②弾劾に用いる矛盾供述の存在については厳格な証明を要すること,が説示されている。

 とすると,純粋補助事実による証明力の減殺は,矛盾供述の存在によって公判供述の信用性を減殺するという328条の想定する推論構造とは異なる構造を有しているといえるから,①のような適用場面の限定がなされている328条による証拠採用の問題の「外」にある問題であるということができる(ただしこれは,平成18年判例は,328条によらない証明力を争う証拠の採用の余地を残すものであると読むことを前提とする)。

 そうすると,328条の適用場面における上記②の縛り,すなわち弾劾に用いる事実の存在については厳格な証明を要するというルールが,純粋補助事実においても適用されるかが問題となる。

  •  A)自由な証明で足りるとする考え方
     自己矛盾供述は,内容に主要事実・間接事実を含むものであって,実質証拠としての性格を帯び得るものであるのに対し,純粋補助事実は,供述の証明力を左右するのみで判決との結びつきが相対的に弱いといえ,自己矛盾供述とは質的な差があるといえる。
     また,伝聞証拠の特信状況や自白の任意性は,証拠能力が認められれば純粋補助事実として機能するが,これらを基礎づける事実については自由な証明でたりる(訴訟法的事実である)とされていることとの均衡を図る必要もある。
     したがって,純粋補助事実の立証は,自由な証明で足りる。
  • B)厳格な証明を要するとする考え方
     純粋補助事実によっても,主要事実に関する決定的な証拠の証明力が左右される場合がある。その点においては,厳格な証明が求められる自己矛盾供述との差異はない。
     また,伝聞証拠の特信状況や自白の任意性についても,厳格な証明と解する方が,平成18年判決と整合するのであるから,むしろいずれについても厳格な証明を要するという意味での均衡が保たれることのほうが重要である。

 

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強盗の論点

暴行の程度

 強盗罪における暴行にあたるかどうかは,「社会通念上,一般に被害者の反抗を抑圧するに足る程度のものであるかどうかという客観的基準により決せられる」(最判昭和24年2月8日)。

 反抗抑圧するに足る暴行の判断においては,被害者が現実に抑圧されたことを要しない最判昭24.2.8)。実行行為性の判断に行為の結果を要求すること自体背理だからである。ただし,現実の抑圧は,反抗抑圧するに足る暴行を要証事実する積極的な間接事実として重要となる。

 被害者の性格については,反抗抑圧の程度に至っているか否かは客観的に判断するという観点からの否定説(西田),被害者が現実に反抗抑圧されているのに恐喝罪が成立するとすれば奪取財と交付罪を区別する財産犯の体系を混乱させるし,被害者の性格もまた客観的要素を構成するという観点からの肯定説(山口)が対立する。

 

実行行為と財物奪取の因果関係

 判例は,実行行為と財物取得に因果関係があれば足りるとする(最判昭24・2・8)。対して通説は,実行行為→反抗抑圧→財物奪取という因果関係を要するとしている(山口等)。

 対立が顕在化するのは,実行行為性あり(社会通念上反抗抑圧に足る)だが,被害者は現実には犯行抑圧されず,憐憫の情から財物を交付したというような事案の処理においてであると考えられる。

 

2項強盗の不法利益取得

 処分行為は不要である(最判昭32・9・13)。奪取罪であるから。

 ただし,具体的な利益移転が必要である。抽象的な利益を得たにとどまる場合にまで2項強盗に問い得るとすると,強要罪等との区別がなくなってしまうからである。

 

240条の問題

原因行為

 強盗の手段たる暴行・脅迫に限定する(手段説)は,狭すぎる。一方,強盗の機会であれば足りる(機会説)とすると,処罰範囲が不当に拡張するおそれがある。そこで,強盗の手段に加え事後強盗類似の状況における暴行・脅迫に限定する事後強盗類似説(拡張手段説)が妥当であると考えられる。

致傷の程度

 判例は,軽微な傷害かどうかを問わない。傷害罪や他の傷害結果により加重される罪と別異に解する根拠はないとする。

主観要件

 脅迫の故意のみ,かつ致傷の予見がない場合にも,致死傷結果を帰責し得るか。少なくとも暴行の故意は必要か。

 強盗致死傷罪は,強盗の機会に残虐な行為を伴うことが多く,死傷の結果の生ずることが多いという刑事学的類型に着目するものである。そこで,暴行の故意の有無により帰責の有無を区別する理由はないから,暴行の故意を要しない(裁判例コンメンタール刑法235頁)。

 

 

 

 

正当防衛の論点

急迫性

 「急迫」とは、法益の侵害が間近に押し迫つたことすなわち法益侵害の危険が緊迫したことを意味するのであって、被害の現在性を意味するものではない(最判S24・8・18刑集3-9-1465)。現に被害にあうのを待たねばならない道理はないからである。

 

〈類型〉

① 単なる予期

② 予期に加え,積極的加害意思

 

①について:

 最判S46・11・16によれば,刑法36条にいう「急迫」とは、法益の侵害が現に存在しているか、または間近に押し迫つていることを意味し、その侵害があらかじめ予期されていたものであるとしても、そのことからただちに急迫性を失うものと解すべきではない。単なる予期があるにとどまる場合に,不正に譲歩する必要はないからである。なお,予期を上回る侵害があった場合,及び漠然とした予期があった場合は,当該侵害に対する予期そのものがなかったといえる。

 

②について:

 最決S52・7・21は,単に予期された侵害を避けなかつたというにとどまらず、その機会を利用し積極的に相手に対して加害行為をする意思で侵害に臨んだときは、もはや侵害の急迫性の要件を充たさないものと解するのが相当であるとする。

 事例処理に当たっては,行為者と相手方の従前の関係、侵害の予期の程度、行為者の反撃の準備の状況、侵害に臨んだ状況、相手方が攻撃に至るまでの経緯、反撃の態様等の客観的事情を総合して認定する。

 

防衛の意思

 「防衛するため」という条文上の文言があり,また行為の社会的相当性を判断するためには行為者の主観も考慮入れるべきであるから,防衛の意思が正当防衛の要件として要求される。

 内容としては,侵害の認識+侵害に対応する意思で足りる。防衛行為は事の性質上,興奮・逆上して反射的になされることが多く,積極的な防衛の動機までは要求すべきではないからである。

 防衛の意思の有無の判断は,相手方や行為者の言動などの外部的事情から、「専ら攻撃の意思」かどうか推認することによって行う(最判S60・9・12)。

 防衛の意思が肯定される場合

  • 相手の加害行為に対し憤激または逆上して反撃を加えたからといつて、ただちに防衛の意思は欠けない(最判昭46・11・16)
  • 防衛の意思と攻撃の意思とが併存している場合の行為は、防衛の意思を欠くものではないので、これを正当防衛のための行為と評価することができる(最判昭50・11・28)

 防衛の意思が否定される場合

  • かねてから被告人が被害者に対し憎悪の念をもち攻撃を受けたのに乗じ積極的な加害行為に出たなどの特別な事情が認められる場合(最判昭46・11・16)
  • 防衛に名を借りて侵害者に対し積極的に攻撃を加える行為(最判昭50・11・28)

 急迫性の否定要素としての「積極的加害意思」が,反撃に及ぶ以前の意思を問題とするのに対し,防衛の意思の否定要素としての「積極的加害意思」は,反撃行為時に初めて生じた加害意思を問題とする。

 

自招侵害

最決平20・5・20

被告人は,Aから攻撃されるに先立ち,A に対して暴行を加えているのであって,Aの攻撃は,被告人の暴行に触発された、その直後における近接した場所での一連,一体の事態ということができ,被告人は不正の行為により自ら侵害を招いたものといえるから,Aの攻撃が被告人の前記暴行の程度を大きく超えるものでないなどの本件の事実関係の下においては,被告人の本件傷害行為は,被告人において何らかの反撃行為に出ることが正当とされる状況における行為とはいえないというべきであり、正当防衛の成立は否定される

 最決平20では,侵害の予期はなく,またの意思の否定も困難であった。そこで,本決定における正当防衛否定の法律構成が問題となるが,「急迫性」や「防衛の意思」といった個別の正当防衛成立要件についてのあてはめを行ったのではなく,「反撃行為に出ることが正当とされる状況における行為」性,すなわち緊急行為性についての検討を行ったとみられる。

  その有無の検討にあたっては,①違法行為による侵害の招致(不正の行為,直後,近接,一連一体),②先行行為と侵害との緩やかな均衡(攻撃が暴行の程度を大きく超えるものではない)が考慮されることになる。

 

※言葉による自招侵害

最決平20.5.20の射程は及ばない。

  • (正当防衛肯定説)
    ○ 相互闘争行為とはいえない
    → 侵害の予期と積極的加害意思があれば,急迫性否定(山口)
    ○ 行為の相当性で考慮(遠藤)
  • (正当防衛否定説)
    ○ 侵害回避義務論(栃木,神戸地H26.12.16参照)
     → 先行行為が侵害行為を直接惹起したと認められる関係があり,かつ侵害行為が予想される範囲内なら回避義務があり,急迫性否定
    ○ 自招行為は暴行に限定する必要はない(林)

 

 

相当性

① 侵害排除効果

 侵害者からの攻撃を防止するために必要であること

② 必要最小限度性

 選択された防衛手段の内容が侵害者からの攻撃の緩急や強弱に対応したものであること

③ 緩やかな均衡

 防衛しようとした法益と侵害した法益とが著しく均衡を失していないこと

 ★事前判断

 ★武器対等原則の実質的適用

 

量的過剰防衛

侵害の継続性アプローチ

Ⅰ:侵害現在時

Ⅱ:侵害終了後

 

 Ⅱへの移行の有無判断基準として,最判平9・6・16は,①加害の意欲,②再度の攻撃に及ぶ可能性を示す(被害者は手すり外側に上半身を乗り出したが、なおも鉄パイプを握っていた→侵害終了せず)。なお,侵害の始期の場合、濫用のおそれ防止の観点があるが、終期の場合は既に平穏阻害状況があるため、緩やかに継続を肯定できる。

 また,高松高判H12・10・19は,財物奪取行為が既遂に達しても、占有がいまだ確固たるものになっていなければ、不法の奪い取られつつある事態はなお進行中であり、急迫不正の侵害も継続中であったとする。ここから,侵害が犯罪である場合には,それが既遂に達した後においてもなおⅠの段階にとどまると評価しうることになる。

 

防衛行為の一体性アプローチ

 Ⅱの段階に至っていても,Ⅰの段階で開始された防衛行為とⅡの段階でなお継続した防衛行為を一個の行為とみることができるならば,ⅠとⅡにわたって行われた行為を一個の過剰な防衛行為として,量的過剰による刑の減免をなしうる。

 行為の一個性は,侵害終了後の行為が防衛行為の余勢に駆られた行為といえるかどうか(責任減少と評価しうる心理状態の継続性)に着目して判断する。具体的には,侵害に対する対抗行為と反撃行為の時間的・場所的接着性、手段の同一性、心理状態の継続等を考慮して決する。

 断絶の例:

  • 【最決H20・6・25】 
    〔第2暴行の評価〕転倒した甲が更なる侵害行為に出る可能性がないことを認識(侵害終了の認識=侵害対応意思としての防衛の意思不存在したうえで、専ら攻撃の意思(=積極的加害意思)に基づき第2暴行に及んでおり、第2暴行は正当防衛の要件を満たさない。
    〔第1暴行との分断〕両暴行は,①時間的,場所的には連続しているものの,甲による②侵害の継続性及び被告人の防衛の意思の有無という点で明らかに性質を異にし,③相当に激しい態様の第2暴行に及んでいることにもかんがみると,その間には断絶がある。
    →①:一体的評価の前提は満たす(客観的連続性
     ②③:第2暴行における積極的加害意思(主観的連続性

 一体評価の例:

  • 【最決H21・2・24】
    被告人が被害者に対して加えた暴行は,急迫不正の侵害に対する一連一体のもの客観的一体性)であり、同一の防衛の意思主観面での連続性)に基づく1個の行為と認めることができるから,全体的に考察して1個の過剰防衛が成立する。

 

 もっとも,最決平21は,一体評価を行うことにより,分断評価すれば正当防衛として正当化された傷害の結果を,違法と評価していることになる。

 そこで,処断刑レベルでの被告人にとっての有利性を考え,

  • (1)構成要件レベル:分断して検討
  • (2)違法性阻却レベル:分断したそれぞれの行為につき違法性阻却を検討
  • (3)過剰防衛認定レベル:客観的連続性・主観的連続性の検討により一体性が認定された場合であっても,処断刑をみて被告人に不利な場合(犯罪成立が否定される行為が一体的評価により違法性を帯びることになる場合)には,一体的評価を行わない。

という処理を行うことが考えられる。

 

*大塚・LS演習46頁

因果関係

 法的因果関係は,当該行為が結果を引き起こしたことを理由に,より重い刑法的評価を加えることが可能なほどの関係が認められ得るかという,法的評価の問題である。

 そこで,因果関係は,当該行為が内包する危険が,結果として現実化したかという観点から決するべきである。

 

思考ステップ

① 結果に現実化した危険は,実行行為に由来するか。

 →肯定:直接実現型〔大阪南港事件,治療拒否事件,トランク事件〕

 →否定:間接実現型の検討(②)

② 危険が直接には介在事情に由来する場合には,当該介在事情は,実行行為により誘発されたものか。

 →肯定(誘発):間接実現型〔高速道路進入事件,トランク事件?〕

 →否定(異常):因果関係否定〔米兵ひき逃げ事件〕

 

因果関係の錯誤

★客観面で因果関係が肯定されていることが前提

 因果関係も客観的構成要件の要素であるから,構成要件的故意の認識対象となる。

 したがって,因果関係の錯誤により行為性要件的故意が阻却される場合には,故意は実行の着手段階に及ぶのみとなり,未遂犯が成立する。

 そして,主観的に危険の現実化と評価される因果経過を認識している限りにおいて(客観的に危険の現実化と評価された因果関係との食い違いが生じていても)故意は阻却されない。→主観的に,危険の現実化とは評価されないような因果経過を認識している場合においては,主観と客観が非対応であることになり,故意が阻却される。

 

<具体的処理>

遅すぎた構成要件の実現~砂浜事例

① 「遅すぎた実現」について客観的因果関係(危険の現実化)を認定

② 主観と客観は,いずれも危険の現実化と評価されるという意味において食い違いがない

 →故意肯定

 

早すぎた構成要件の実現→クロロホルム事例

① 第1行為と結果との因果関係を認定

② 第1行為の時点での実行の着手を認定(一連の殺害故意開始)

③ 主観と客観は,いずれも危険の現実化と評価されるという意味において食い違いがない

 →故意肯定

公務執行妨害罪

公務

現に執行している職務に限定される。

※「現に」という限定が付される点で,業務妨害罪の「業務」が「具体的個々の現実に執行している業務の みに止まらず、広く被害者の当該業務における 地位に鑑みその任として遂行すべき業務も含む (最判S28・1・30)」とされるのと異なる。


 「強制力を行使する権力的公務」は,妨害排除力を有するから威力・偽計からの保護を要せず,公務執行妨害罪によってのみ保護される。
 「強制力を行使しない権力的公務」及び「非権力的公務」については,民間と同様,威力・偽計に対する排除力を有しないから,公務執行妨害罪及び業務妨害罪によって保護される。
 「強制力を行使する権力的公務」への該当性は,妨害排除力を有する公務員の職務であるか否かによって決される。

 

 ※帰結として,「強制力を行使する権力的公務」は,「偽計」から保護されない。これは,強制力を行使する権力的公務であれば,偽計に対しても排除力を有するという前提に立つことで正当化しうると考えられる。東京高判H21・3・12も,「妨害された本来の警察の公務の中に,仮に逮捕状による逮捕等の強制力を付与された権力的公務が含まれていたとしても,その強制力は,本件のような虚偽通報による妨害行為に対して行使し得る段階にはなく,このような妨害行為を排除する働きを有しない」として,「偽計による妨害行為に対して強制力を行使し得る」場合があることを前提としていると解することができる。

 

 

職務の適法性

 書かれざる要件ではあるが,保護に値する公務とは適法であることが前提となっていると考えられる。

 当該公務が,当該公務員の①抽象的職務権限に属し,②具体的職務権限に属し,③重要な方式を履践していることを要する。

 ③については,「重要でない」を観念し得る。すなわち,法令上の適法要件を完全に充足している必要はない。

 

適法性は,あくまで客観的に判断されるべきである。

もっとも,かかる客観判断の対象は,刑訴法等の法令の要件適合性であって,対象となる法令そのものが要件として実体的真実性を要求していない場合(例えば,逮捕要件たる「罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由」は,逮捕対象者が「真犯人である」ことを要求していない)には,当該法令の要件適合性を判断すればよいという点において,「行為時」を基準とする判断を行うこととなる。