コム朝日記

廉価食パンについての哲学

会社分割と債権者保護

Q.事業譲渡と会社分割はどう異なるのでしょうか?

 事業に含まれる権利義務については、事業譲渡では個別の移転手続が必要であるのに対し、会社分割で個別の移転手続が不要となります。
 債務の移転についても、事業譲渡では債権者の承諾が必要であるのに対し、会社分割では原則として債権者の承諾が不要となります。
 対象については、会社分割の場合、常に株主総会の特別決議が要求される(略式分割および簡易分割の場合を除きます)ので、分割の対象は事業譲渡における「事業」よりも柔軟に解してよいとされています(神田18版375頁)。また、会社法は「事業に関して有する権利義務の全部又は一部」を会社分割の対象としているので、会社分割の対象は事業自体ではなく、財産の有機的一体性等は不要であるとされています(同前)。

【参考】事業譲渡と会社分割の違い(組織再編) - 深井公認会計士事務所|M&A|株価算定|会計・税務顧問|

 

Q.承継会社の既存の債権者の保護はどのように図られますか?

 承継会社の既存の債権者にとっては、吸収分割が行われ、分割会社の債務が承継会社に移転してくると、それまであてにしていた承継会社の財産が減少しうるという不利益をこうむることが考えられます。
 そこで、承継会社の既存の債権者については、債権者異議手続によって保護が図られます(799条1項2号)。

 

Q.承継会社による免責的債務引受けがされた場合の、吸収分割会社債権者の保護はどのように図られますか?

 承継会社による免責的債務引受けがされる場合、分割会社債権者は当初分割会社の責任財産をあてにしていたのに、免責的債務引受けによって承継会社の財産しかあてにできないことになり、弁済を十分に受けられなくなるという不利益をこうむりかねません。
 しかし、免責的債務引受けがなされる場合でも、債権者の個別の承諾を得ることは不要ですので、債権者は個別の承諾という形で保護を図ってもらうことはできません。
 ただ、債権者異議手続が行われますから、その中で保護が図られることになります(789条1項2号)。ここで、各別の催告が必要であるのに個別催告を受けなかった債権者については、重畳的債務引受の効果をもたらす法定責任を追及することができます。
 また、このような債権者に吸収分割無効の訴え(828条1項9号)の提起を認めることも考えられます。

 

Q.債務が分割会社に残された場合の、分割会社債権者(残存債権者)の保護はどのように図られますか?

 債務が分割会社に残された場合、プラスの財産だけが承継会社に移転し、債務の弁済のあてとなる財産が分割会社に残っていないという状況などを考えると、残存債権者は分割会社から弁済を十分に受けられなくなるという不利益をこうむりかねません。
 この場合、残存債権者は異議申述権をもたないため(789条1項参照)、債権者異議手続によって残存債権者の保護を図ることができません。
  そこで、どのようにして残存債権者の保護を図るかが課題となります。考えうる手段としては、①吸収分割無効の訴えの提起、②吸収分割の詐害行為取り消し、③法人格の否認、④会社22条1項類推適用、⑤否認権の行使などがあげられます。

 ①吸収分割無効の訴えについては、異議申述権をもたない債権者は原告適格を有しないと考えられています。したがって、①による保護はできないことになります。

 ②吸収分割を詐害行為として取り消す(民法424条以下)ことはどうでしょうか。
 まず、会社分割が会社法の定める組織法上の行為であり、その無効は訴えをもってのみ主張することができるとされている(828条1項)とされていることとの関係で、取消しが認められるのかという点が問題になります。会社の組織に関する無効の訴えは、会社の組織をめぐる法律関係の安定を図るため、無効の主張方法を制限することを趣旨とするものです。これに対して、物的分割の場合に分割会社の残存債券者に異議申述権が認められていないのは、会社分割にあたり分割会社は承継会社に移転した純資産の額に相当する対価を取得しているのだから、分割会社の財産状況には変動がなく、責任財産の額に変化はないと考えられることを根拠とします。しかし、前述のような、残存債権者が弁済を十分に受けられなくなるという不利益をこうむりうることを考えると、異議申述権を否定した論理を用いて、詐害行為取消権による救済の途をも閉ざすことは妥当でないといえます。そして、このような残存債権者の救済の必要性の前には、無効の訴えの対象との抵触にもかかわらず、詐害行為取消を認めるべきと考えられます。最判24・10・12も、詐害行為取消権の行使を許容しています。
 詐害行為取消権の行使が許容されるとした場合、詐害性の要件がみたされるかがポイントとなります。詐害性を肯定する要素としては、たとえば換価が容易な財産(土地等)の移転の対価として、閉鎖会社である設立会社の株式という換価が困難な財産が交付されたことがあげられます。対して、対価の換価困難性は、隠匿や無償供与を困難にするという点で詐害性を否定する要素としても作用します。また、対価として交付された株式の価値の増大が結果的に分割会社の責任財産増加につながることも考えれば、必ずしも換価困難性にかかわらず、詐害性を否定する方向に評価が可能です。
 要件が満たされた場合の行使の効果としては、会社分割という行為全体が取消しの対象となると考えられます。もっとも、責任財産の確保という制度目的から、返還を求めることができる範囲は、残存債権者の被保全債権の額に限定されます。

生命保険担保貸付

Q.私(X)が加入している生命保険会社の契約者貸付制度に基づいて,Yが私の代理人と称して勝手に貸付けを受けてしまいました。私の保険金・解約返戻金支払請求権は消滅してしまうのでしょうか?

 契約者貸付制度に基づく貸付が,478条の「弁済」に該当すると考えれば,同条の他の要件が満たされた場合,貸付は生命保険会社の債権の準占有者に対する弁済として有効となり,契約者の保険金・解約返戻金支払請求権が消滅してしまうことになります。
 478条は,債務者の債権者に対する債務不履行責任の負担を逃れさせるために,債権者の外観を有する者に対する弁済を一定の要件のもとで有効と扱い,債務者を保護すること趣旨とする規定と考えられます。したがって,同条の「弁済」は,債務者が債権者に対して元来負っていた履行を拒むことができない債務の弁済を指すと考えることが妥当です。すなわち,もともと負っていた金銭の返還債務を超えた,新たな与信に至る行為は,債務者にとって本来の契約上の義務に含まれない行為ですから,その行為を行わなくとも本来の債務の不履行責任を負うことにはなりません。よって,このような行為を「弁済」と評価することはできず,478条の適用はないと考えられます。
 生命保険の保険金・解約返戻金と貸付の元利金が差し引きされることが予定された契約者貸付制度においては,貸付行為はたしかに保険金等の前倒しの支払いとして「弁済」にあたるとも考えられます。しかし,将来における差し引きが予定されるところの保険金等の原資となる保険料は,貸付時以降も保険契約者が支払い続けるものです。このことからすれば,生命保険会社は,未だ原資が確保されていない保険金等を担保的に扱い,貸付を行っていることになります。つまり,貸付額に対応する額が保険料として確保されていないのであれば,貸付額に足りない部分について,生命保険会社は保険契約者に対して与信を行っていることになるのです。
 このことをふまえると,契約者貸付制度による保険契約者に対する貸付けは,新たな与信に至る行為であるといえ,生命保険会社にとっての本来の契約上の義務に含まれない行為といえますので,478条の「弁済」には当たらないと考えられます。
 以上より,Yが貸付を受けたことによりXさんの保険金等支払請求権が消滅することにはなりません。※以上は初発の起案です。

 

Q.判例は,どのように考えていますか?

 最判平9・4・24は次のように判示しています。

原審の適法に確定したところによれば、本件生命保険契約の約款には、保険契約者は被上告人から解約返戻金の九割の範囲内の金額の貸付けを受けることができ、保険金又は解約返戻金の支払の際に右貸付金の元利金が差し引かれる旨の定めがあり、本件貸付けは、このようないわゆる契約者貸付制度に基づいて行われたものである。

右のような貸付けは、約款上の義務の履行として行われる上、貸付金額が解約返戻金の範囲内に限定され、保険金等の支払の際に元利金が差引計算されることにかんがみれば、その経済的実質において、保険金又は解約返戻金の前払と同視することができる

そうすると、険会社が、右のような制度に基づいて保険契約者の代理人と称する者の申し込みによる貸付を実行した場合において、右の者を保険契約者の代理人と認定するにつき相当の注意義務を尽くしたときは、保険会社は、民法四七八条の類推適用により、保険契約者に対し、右貸付けの効力を主張することができるものと解するのが相当である。

※原文は改行していません。

 同判決についての保険法判例百選96事件解説(山田剛志教授)は,「保険契約者貸付に対し民法478 条にいう「弁済」の適用があるかについて,前払説の立場からは貸付は解約返戻金の前払という一種の弁済と説明できるので,民法478条の適用もしくは軽微な類推適用が可能となろう」としたうえで,しかし「保険契約者貸付を純粋な前払と理解することには,種々の異論があり,貸付という側面も無視できないため民法478条を直接適用することは困難である」と指摘します。そこで,同判決では,預金担保貸付における民法478条の類推適用による処理の手法を援用し,「保険契約者貸付についても民法478条を類推適用し,貸付申込者を権利者ないし代理人と善意無過失で信じた保険者を保護するという法理」が採用されていると説明されます。
 同判決の論理の説明として,山田教授は「貸付という形式はあるにせよ,前述のとおり,返済期日が未定であること,保険金支払の際に元利金が相殺されること等に鑑みると,貸付が保険契約者と保険者の間に成立していることを認め,「保険金又は解約返戻金の前払と同視する」という判示を前提に,民法478 条を類推適用することは可能であろう」と指摘されます。

再審

Q.再審請求の理由にはどんなものがありますか?

 再審請求理由は,刑訴法435条に列挙されています。
 なかでも,6号の,無罪等を認めるべき明らかな新証拠を発見したことを利用する「ノヴァ型」による再審請求が大多数です。

 

Q.435条6号は,どんなときに満たされますか?

 435条6号は,「明らかな証拠をあらたに発見したとき」と規定して,いわゆる証拠の明白性と新規性の要件を定めています。
 最高裁は,証拠の明白性の要件に関して,白鳥決定(最決昭和50・5・20)において,次のように判示しています。

 同法四三五条六号にいう「無罪を言い渡すべき明らかな証拠」とは、確定判決における事実認定につき合理的な疑いをいだかせ、その認定を覆すに足りる蓋然性のある証拠をいうものと解すべきであるが、右の明らかな証拠であるかどうかは、①もし当の証拠が確定判決を下した裁判所の審理中に提出されていたとするならば、はたしてその確定判決においてなされたような事実認定に到達したであろうかどうかという観点から、②当の証拠と他の全証拠と総合的に評価して判断すべきであり、この判断に際しても、③再審開始のためには確定判決における事実認定につき合理的な疑いを生ぜしめれば足りるという意味において、「疑わしいときは被告人の利益に」という刑事裁判における鉄則が適用されるものと解すべきである。

 ①~③は引用者が付したものです。

 

*司法試験での出題

〈平成20年新司法試験短答式問題 刑事系科目第40問〉

再審事由を定める刑事訴訟法第435条第6号は、「明らかな証拠をあらたに発見したとき」と規定して、いわゆる証拠の明白性と新規性の要件を定めているが、証拠の明白性に関する次のアからエまでの各記述のうち、判例に照らして、正しいものの組合せは、後記1から4までのうちどれか。
 
ア. 「明らかな証拠」とは、有罪等の確定判決を覆し無罪等の事実認定に到達する高度の蓋然性のある証拠を意味する。 ×

イ. 「明らかな証拠」とは、確定判決における事実認定につき合理的な疑いを抱かせ、その認定を覆すに足りる蓋然性のある証拠を意味する。 〇

ウ. 証拠の明白性は、申立てに係る証拠のみを単独に評価する孤立的な方法によって判断すべきである。 ×

エ. 証拠の明白性は、もし申立てに係る証拠が確定判決を下した裁判所の審理中に提出されていたとするならば、果たしてその確定判決においてなされたような事実認定に到達したであろうかどうかという観点から、当の証拠と他の全証拠と総合的に評価して判断すべきである。 〇

 

 

同時履行と信義則

 

欠陥住宅事件
最判平9・2・14
民事判例の読み方・事例1

★接合シボレーオークション事件
最判平21・7・17
民事判例の読み方・事例3

 

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Q.錯誤無効が認められる場合,履行済みの各給付は同時履行関係に立ちますか?
 双務契約上の債務については,明文で同時履行関係が認められています(533条)。
 ここで,1個の双務契約から生じた対立する債務について,同時履行の抗弁権が認められているのは,両債務が相互に一方の債務を負担するから他方も債務を負担するという関係を有するため,両債務を関連的に履行させることが公平に適するからです。
 そうだとすれば,必ずしも1個の双務契約から生じた場合でなくとも,両債務が1個の法律要件から生じ,関連的に履行させることが公平に適する場合には,広く同時履行の関係を認めるべきです。
 そこで,契約が無効又は取消された場合においても,既履行の各給付の返還義務相互間に,同時履行の関係が認められると考えます。
 したがって,錯誤無効の場合も,履行済みの各給付は同時履行関係に立ちます。

 

Q.同時履行関係はいつも認められるものなんでしょうか?
 「関連的に履行させることが公平に適する」ということが同時履行関係を認める根拠でした。したがって,このことが妥当しない場合,すなわち関連的に履行させることが公平に適さないという個別の事情がある場合には,同時履行の抗弁を許さないとするのが相当と考えられます。このことは,同時履行の主張が信義則(1条2項)に違反し許容されないという法律構成によって導くことができます。

 

*参考にしたもの
◆平成21年度主要民事判例解説 030 民法-契約 自動車の買主が,当該自動車が車台の接合等により複数の車台番号を有することが判明したとして,錯誤を理由に売買代金の返還を求めたのに対し,売主が移転登録手続との同時履行を主張することが信義則上許されないとされた事例 最高裁第二小法廷平成21年7月17日判決 安福達也:仙台地方裁判所判事

 

民法478条の主張と信義則

Q.無権限で預金を払戻した者に対する,預金債権者からの不当利得返還請求訴訟において,被告が「払戻しに準占有者弁済は成立しないから,預金債権は失われていない」と主張することはできますか?

最判平16・10・26】

X:原告,Y:被告,B:金融機関

「Yは,BはX相続分の預金の払戻しについて過失があるから、上記払戻しは民法478条の弁済として有効であるとはいえず、したがって、Xが本件各金融機関に対して被上告人相続分の預金債権を有していることに変わりはないから、Xには不当利得返還請求権の成立要件である「損失」が発生していないなどと主張して、Xの上記請求を争っている。」

「そこで検討すると、

 (1)Yは、Bから被上告人相続分の預金について自ら受領権限があるものとして払戻しを受けておきながら、Xから提起された本件訴訟において、一転して、Bに過失があるとして、自らが受けた上記払戻しが無効であるなどと主張するに至ったものであること、

 (2)仮に、Yが、本件各金融機関がした上記払戻しの民法478条の弁済としての有効性を争って、Xの本訴請求の棄却を求めることができるとすると、Xは、本件各金融機関が上記払戻しをするに当たり善意無過失であったか否かという、自らが関与していない問題についての判断をした上で訴訟の相手方を選択しなければならないということになるが、何ら非のないXがYとの関係でこのような訴訟上の負担を受忍しなければならない理由はないこと

などの諸点にかんがみると、Yが上記のような主張をしてXの本訴請求を争うことは、信義誠実の原則に反し許されないものというべきである。」

不当利得と不法行為 〈問のみ・未完〉

Q.不当利得として返還請求できるところの金銭を「損害」として不法行為に基づく賠償請求をすることが認められるのはなぜでしょうか?

 その金銭について,不当利得として返還請求ができるならば,不法行為による「損害」が生じていないことになるではないか,とも思えます。

 「実体上不当利得返還請求の対象になる」ことを強調すれば,結局不当利得として返還されるべきものなのだから,その金銭を「損害」として捉えるのは不自然であると考えれらます。

 一方,「実際に不当利得返還請求をせず,不法行為責任のみを追及する」ことを考えると,不当利得返還請求をしない以上はその金銭が債権者のもとに戻ってくるあてがないため,「損害」として捉えることが容易であると考えられます。

代償請求権

Q.判例は,代償請求権についてどのように定義していますか?

最判昭41・12・23は,「一般に履行不能を生ぜしめたと同一の原因によって,債務者が履行の目的物の代償と考えられる利益を取得した場合には,公平の観念にもとづき,債権者において債務者に対し,右履行不能により債権者が蒙りたる損害の限度において,その利益の償還を請求する権利を認めるのが相当であ」ると判示しています。

 

Q.判例は,代償請求権の根拠をどこに求めていますか?

 前掲最判昭41は,「民法 536条 2項但書〔現行 2項後段〕の規定は,この法理のあらわれである」としています。

 しかし,536条2項後段は,債務者が自己の債務を免れたことによる利益の償還に関する規定であって,「目的物の代償と考えられる利益を取得した」ケースまでも包含するものではないと考えられます。したがって,同規定を判例の定義にいう代償請求権の十分な法的根拠とすることはできないと考えられます。

 百選Ⅱ6版9事件(田中宏治)も,判例の挙げる根拠は不適切であるとしています。

 

Q.では,代償請求権の根拠法的性質をどのように考えればよいのでしょうか?

 仮に不当利得として構成するならば,次のように考えることができるのではないでしょうか。

 すなわち,「目的物の代償と考えられる利益の取得」であっても,少なくとも当該利益移転の当事者間にあっては,当該利得に何らかの法律上の原因があると考えられます。したがって,当該利得を当然に法律上の原因を欠くものとして扱うことはできません。しかし,不当利得法の趣旨たる「公平の観念」にまで遡って考えれば,履行不能にかかる債務の債権者(X)-債務者(Y)間においては,当該利得を債務者に保持させておくことは実質的に「公平の観念」に反すると評価できますから,Xとの関係では,Yが取得した目的物の代償と考えらえる利益の保持には法律上の原因を欠くと評価することが可能です。

 ここでは,「目的物の代償と考えられる利益」をYに保持させておくことが「公平の観念」に反すると評価できることがポイントとなると考えられます。この評価を正当化するにあたって,民法が「公平の観念を欠く利得は吐き出させるべきである」という考え方を採っていることの証左として536条2項後段を挙げることは可能であると考えられます。もっとも,「利得の吐き出し」という効果を導く明文は存在しないことから,形式的には正当化される代償利益の保持について,「吐き出させるべき」という評価を加えることはかなり困難ではないかとも考えられます。