株主提案権
議題提案の適法性
まずは,303条の定める形式要件(行使期間制限,持株要件)をクリアしていることが要求される。
形式要件をクリアしたうえで,当該議題が「議決権を行使することができる事項」の範囲に含まれているかが問題となる。ここでは,(A)請求を行う株主が当該事項について議決権を行使できるかどうかに加え,(B)その前提としてそもそも当該事項が総会決議によって決定できる事項かどうかが問題となる。
※取締役会設置会社を念頭におく
提案権行使後・総会前に持株要件を欠くに至った場合
この場合,2通りの考え方がありうる。
- ア:基準日(124条)において株主であったのならば,その後に名義書換がなされない限りその者は株主総会において議決権を行使できる。これと同様に考えて,基準日において持株要件を充足していれば足りると考える。
- イ:株主総会終結時において持株要件が維持されている必要がある。
株主提案権を,総株主のための権利とみるか(ア),提案を行う個々の株主のための権利とみるか(イ)によって見解の差異が生じる。
ひとたび適法に請求を行ってしまえば,かかる請求にかかる議題について検討することが株主全体の利益に資すると考えると,アの見解支持に傾く。一方で,提案を行った当の株主が総会の時点で既に退社しているならば,もはや当該株主が当初提案によって得ようとした利益を実現する必要はないと考えると,イの見解支持に傾く。
もっとも,これらの価値判断とは別に,適法な株主提案が行われた後総会までの間に当該請求を行った株主が退社したかどうかを逐一把握すべきとすることは煩雑にすぎるという実務上の要請も考慮しなければならない。そこで,結果としてアの価値判断に傾くこととはなるが,持株要件充足の判断は「基準日」または「請求日」のいずれか遅い時点を基準に行うべきと考える。
議案を伴わない議題提案
株主1000人以上の株式会社においては株主総会において書面投票を可とすることが義務付けられ(298条2項本文・同1項3号),これを行う場合に送付しなければならない株主総会参考書類(301条1項)には「議案」を記載しなければならない(会社規則65条1項・同73条1号)。また,株主総会の招集通知においても「議案」を(299条4項・298条1項5号・会社規則63条3号イ・同73条1項1号)。したがって,議案を伴わない議題のみの提案では,適法な株主総会参考書類・招集通知送付を行えないため,当該提案は不適法である。
※書面投票を義務付けられない会社においては,フロア提案(304条)を行えば足りる。
剰余金配当(定款に459条1項4号の定めがある場合)
459条1項4号は,剰余金配当に関する決定を取締役会の決議にかからせることができることについて定める。この規定に従い,取締役会が剰余金配当に関する決定を行うことを定款において定めていた場合に,株主総会において剰余金配当に関する決議ができるかが問題となるが,459条1項4号はあくまで取締役会に対する権限の「付与」について定めたものであり,株主総会において剰余金配当に関する決議ができなくなるかという点についてまで同規定によって明らかになるわけではない。この点については,460条1項により,459条1項の規定による定款の定めがある場合には,株主総会は,同項各号に掲げる事項を株主総会の決議によっては定めない旨を定款で定めることができるとされているのであり,これをもって初めて株主総会が当該事項について決議することができるか・できないかが決まるのである。
したがって,460条1項の規定による定款の定めがある場合には,株主総会決議をもって剰余金配当に関する決定ができないことになり,これによって当該事項は「議決権を行使することができる事項」に含まれないことになるから,議題提案権の行使はその要件を満たさず不適法となる。ただし,この場合,〔1〕460条1項の規定による定款の定めを廃止する旨の定款変更を行い(466条・309条2項11号),〔2〕そのうえで下記のような株主提案を行って株主総会決議をもって剰余金配当に関する決定を行うという手段をとることはできる(二段構え作戦)。
一方で,460条1項の規定による定款の定めがない場合には,株主総会決議をもって剰余金配当に関する決定を行うことは会社法上排除されていないことになり,これによって当該事項は「議決権を行使することができる事項」に含まれることになるから,議題提案権の行使はその要件を満たし適法となる。
株式分割承認
183条2項は,株式分割の承認を取締役会決議事項としている。この規定をもって,株式分割の承認に関する株主総会の権限は排除されていることになるから,当然には「議決権を行使することができる事項」(303条1項)に該当することにはならない。この場合にも,前述のような二段構え戦略をとることは可能である。
特定の業務執行についての提案
取締役会設置会社においては,取締役会は会社の業務執行の決定(362条2項1号)を行うこととされており,所有と経営の分離という株式会社制度の本質が強調されることになる。
そこで,取締役会設置会社の株主総会は,特定の業務執行についての決定をすることはできないと解すべきである。したがって,特定の業務執行についての提案は,「議決権を行使することができる事項」についての提案とはいえず,株主提案の不適法である。
ただし,この場合もいわゆる「二段構え戦略」(295条2項「定款で定めた事項」に当該特定の業務執行についての決定を含める旨の定款変更(466条・309条2項11号)を行ったうえで,当該特定の業務執行についての提案を行う)を採ることは可能である。
すべての業務執行を総会決議事項とする議題提案
この場合,「議決権を行使することができる事項」であることの前提としての,株主総会が決議することができる事項(295条2項)への該当性が問題となる。
株式会社においては,株主が実質的所有者であるが,一般株主は経営の意思も能力もないのが通常であるため,経営の合理化を図るべく,経営は取締役に委ねられている(295条2項参照)。
取締役会設置会社においては,業務執行は取締役会の権限とされる(362条2項1号)が,これもまた同様に経営の合理化のために取締役への権限委譲を行うものである。そして,たしかに株主意思により取締役会の権限たる業務執行に関する決定事項を定款で総会決議事項とすることは認められるが(295条2項「定款で定めた事項」),業務執行のすべてを総会決議事項としてしまうことは,取締役会制度の存在意義を没却するものであり,許されない。
したがって,すべての業務執行を総会決議事項とする定款変更は,株主総会が決議することができる事項に含まれないから,「株主が議決権を行使することができる事項」ではない。
よって,係る提案は不適法である。
総会終結をもって任期満了退任する取締役の解任提案
東京地決平26・9・30
「被告らは、当該株主総会の終結をもって任期が満了する取締役の解任を求める議案は、それが株主総会の終了時までという極めて短期間の任期を問題として、実質的に役員の資格のない者を解任しようとするものであって、あえて解任につき決議をする必要性に乏しいから、被告会社が71期提案を招集通知に記載しなかったことには正当な理由があると主張する。
しかしながら、解任の有無は、当該株主総会における当該取締役の権利義務等法的地位に影響する可能性があり、また、仮に、株主総会の終結をもって取締役が任期満了により退任したとしても、新たな取締役が選任されず、取締役が欠けたり、法律又は定款で定めた取締役の員数が欠けた場合、任期満了により退任した取締役は新たに取締役が就任するまでなお取締役としての権利義務を有する(会社法346条1項)のに対して、解任された取締役の場合は、上記権利義務を有しない。
このように、取締役が任期満了により退任する場合と解任決議により終任する場合とでは、法律上も取扱いが異なっており、当該株主総会の終結をもって任期が満了するという理由で、解任決議を行う必要がないということはできない。」
当然の二段構え戦略?
〔1〕定款変更→〔2〕改めて提案,という二段構え戦略を採らなければ当該事項に関する提案は不適法である場合に,〔1〕の提案がなされていなくても,〔2〕の提案があったとみてよいかどうかが問題となる。
しかし,株主が最終的に企図する個別の提案と異なり,定款変更は当該事項にとどまらず当該会社の活動一般に影響することを考えると,当初の個別の提案をもって〔1〕の定款変更の提案があったとみることは妥当でない。
そこで,当然に二段構え戦略がとられたとみることはできない。
提案議題が付議されなかった場合の効果
東京高判平23・9・27
原則
「株主総会等の招集の手続が法令若しくは定款に違反し、又は著しく不公正なときのほか、決議の方法が法令若しくは定款に違反し、又は著しく不公正なときにも株主総会等の決議の取消しの訴えをもって当該決議の取消しを請求することができるが(会社法831条1項1号)、同号にいう決議とは株主総会において形成力を生ずる事項を内容とする議案が所定の手続を踏んで可決された場合における当該決議をいい、可決された上記議案とは別に、株主が同法303条所定の要件を備えて一定の事項を株主総会の目的とすることを請求したが株主総会において取り上げられなかったものがあっても、そのことは、原則として当該決議の取消しの事由には当たらず、」
例外
「例外的に、
に限り、同法831条1項1号に掲げる場合に該当すると解するのが相当である。」