河本フォーミュラ
手形法
【人的抗弁の制限】
第17条
為替手形に依り請求を受けたる者は振出人其の他所持人の前者に対する人的関係に基く抗弁を以て所持人に対抗することを得ず
但し所持人が其の債務者を害することを知りて手形を取得したるときは此の限に在らず
定義
「債務者を害することを知りて」とは,所持人が手形を取得するに当たり,手形の満期において,手形債務者が所持人の直接の前者に対し,抗弁を主張して手形の支払いを拒むことは確実であるという認識を有している状態を指す(河本フォーミュラ)。
手形債務者は,所持人による支払請求に対して,所持人がかかる認識を有していることを主張・立証する(抗弁)ことにより,手形金の支払いを免れることができる。
攻撃防御
請求原因ー手形金請求
抗弁ー17条但書該当性(対抗確実な抗弁事由にかかる認識を有しつつ所持人が手形を取得した事実)
再抗弁ー手形抗弁の確実性を否定する根拠
適用
① 手形の取得に際して,原因関係にかかる契約につき,手形債務者において解除権または取消権が生じていることを,手形所持人が知っていた場合
◆[抗弁]これらの原因事実に関する認識のみで,一般的に抗弁対抗の確実性は充足される。
◇[再抗弁]ただし,このように社会通念上対抗確実な抗弁事由とされる原因事実の存在は認識しつつも,それらが行使されない見込みがあった等,抗弁対抗の確実性を否定する根拠となる個別事情を所持人が主張立証するときは,手形債務者は,所持人の前者に対して有する人的抗弁を所持人に対抗することができない。
② 手形の取得に際して,履行期は到来していないが原因債務が未履行であることを,手形所持人が知っていた場合
◇原因債務の未履行という原因事実の認識だけでは足りない。
◆[抗弁]もっとも,当該債務の不履行が確実となる事情という付加的事実を伴ったときには,抗弁対抗の確実性は充足される。
③ 手形の取得に際して,手形債務と相殺しうる債権を,手形債務者が所持人の前者に対して有しているという事実を,手形所持人が知っていた場合
◇相殺適状にある債権の保有事実は,それのみでは抗弁対抗の確実性を充足しない。
◆[抗弁]もっとも,手形債務者が相殺の意思を有していたとか,所持人の前者が無資力であるため相殺意外に手形債務者の債権を満足させることが不可能であったといった,相殺が確実に行われると考えられる付加的事実を所持人が認識していれば,抗弁対抗の確実性は充足される。