因果関係
法的因果関係は,当該行為が結果を引き起こしたことを理由に,より重い刑法的評価を加えることが可能なほどの関係が認められ得るかという,法的評価の問題である。
そこで,因果関係は,当該行為が内包する危険が,結果として現実化したかという観点から決するべきである。
思考ステップ
① 結果に現実化した危険は,実行行為に由来するか。
→肯定:直接実現型〔大阪南港事件,治療拒否事件,トランク事件〕
→否定:間接実現型の検討(②)
② 危険が直接には介在事情に由来する場合には,当該介在事情は,実行行為により誘発されたものか。
→肯定(誘発):間接実現型〔高速道路進入事件,トランク事件?〕
→否定(異常):因果関係否定〔米兵ひき逃げ事件〕
因果関係の錯誤
★客観面で因果関係が肯定されていることが前提
因果関係も客観的構成要件の要素であるから,構成要件的故意の認識対象となる。
したがって,因果関係の錯誤により行為性要件的故意が阻却される場合には,故意は実行の着手段階に及ぶのみとなり,未遂犯が成立する。
そして,主観的に危険の現実化と評価される因果経過を認識している限りにおいて(客観的に危険の現実化と評価された因果関係との食い違いが生じていても)故意は阻却されない。→主観的に,危険の現実化とは評価されないような因果経過を認識している場合においては,主観と客観が非対応であることになり,故意が阻却される。
<具体的処理>
遅すぎた構成要件の実現~砂浜事例
① 「遅すぎた実現」について客観的因果関係(危険の現実化)を認定
② 主観と客観は,いずれも危険の現実化と評価されるという意味において食い違いがない
→故意肯定
早すぎた構成要件の実現→クロロホルム事例
① 第1行為と結果との因果関係を認定
② 第1行為の時点での実行の着手を認定(一連の殺害故意開始)
③ 主観と客観は,いずれも危険の現実化と評価されるという意味において食い違いがない
→故意肯定