コム朝日記

廉価食パンについての哲学

94条2項類推適用(旧司昭62民1)

 甲は、乙に対し、甲の所有する土地Aの登記済証、実印等を預けて長期間放置していたところ、乙は、土地Aにつき、勝手に自己名義に所有権移転登記をしたのち、丙に対する自己の債務を担保するため抵当権を設定し、その旨の登記を了した。その後、乙は、土地Aを丁に売却したが、登記は、いまだ丁に移転されていない。

 右の事例において、丁が丙に対して抵当権設定登記の抹消請求をすることができる場合及びこれをすることができない場合について、理由を付して論ぜよ。

丁が信頼したものはなにか?

 丁の土地A所有権取得についての94条2項類推適用を考えるにあたり,丁が信頼したのは「丙の抵当権設定登記のある土地Aの登記」であるから,そもそも「抵当権の負担のない土地Aの取得」については丁の信頼を保護する前提を欠くといえる。したがって,丁が94条2項類推適用により取得しうるのは「丙の抵当権の負担のある土地Aの所有権」にとどまることになり,丙と丁とは対抗関係には立たない。

丙が抵当権を取得しなかったら?

 丙の抵当権取得につき94条2項類推適用の要件が満たされず,丙が抵当権を取得しなかった場合においても,丁の信頼対象は「丙の抵当権設定登記のある土地Aの登記」であって,信頼を生じていなかった「抵当権の負担のない土地Aの取得」の効果をもたらしえないとも考えられる。しかし,この場合には,「丁が取得する所有権は原則として制限付だけれども,丙が何らかの理由で権利取得できないときは別なのであって,丁は完全な所有権を取得できるのだ,と言わざるをえない」(貞友・99頁)。抵当権付の所有権しか取得できないという「マイナス方向への信頼」=「あるのにない」との信頼の場合には,「もともと所有権を得ようとしていた者に対して,完全な所有権を与えることには問題がない」(同)のであるから,信頼の限度でしか保護しないとする理由はない。したがって,丙が抵当権を取得しなかった場合には,丁は94条2項類推適用により,A土地につき完全な所有権を取得することになる。

 

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