コム朝日記

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授権行為の取消しと表見代理〈旧司平成3年民法第1問〉

 1 どの表見代理規定を用いることが可能か

 112条(代理権消滅後の表見代理)は、有効に成立した代理権が消滅した後に、代理行為がなされた場合の規定であって、代理行為後に授権行為が取消された場面においては適用できない。

 109条(代理権授与の表示による表見代理)について。たしかに「他人に代理権を与えた旨を表示した」とは、代理権授与の外観を呈する観念の通知を行ったことを意味するにすぎず、これ自体は意思表示ではないから、授権行為が取消されても、観念の通知としての表示行為は残存するとみれば、「表示」を基礎とする同条の表見代理の成立余地があるとも考えられる。しかし、「表示」から生ずる表見代理成立という本人に重大な影響を与える効果を考えると、この「表示」にも意思表示の規定を類推適用する必要があるといえる。また、瑕疵ある意思表示としての授権行為と「表示」とは、通常密接な関連を有することを考慮すると、授権行為の遡及的無効は、「表示」の効力にも影響することを認めてよい。そこで、授権行為の取消しにより、「表示」もまた遡及的に無効となると考える。ただし、委任状を放置するなど「表示」が残存していると評価できる場合には、授権行為の取消原因となった瑕疵の存在を考慮してもなお、本人の帰責性が認められるといえるから、109条の適用を認めることができると考える。

 

 2 表見代理の成立余地

 表見代理とは本来、行為当時無権代理人であった者による代理行為の効果を本人に帰属させるための制度である。

 この前提からすれば、まだ授権行為の取消しがなされていなかった行為当時においては、代理人は有効な代理権を有していたのであって、そもそも表見代理規定の適用の前提を欠いているのではないかとも考えられる。

しかし、〈①:授権行為取消し→代理行為〉のケースにおいては、代理行為時に有効な代理権が存在しなかったがゆえに表見代理による保護の余地があるのに対し、〈②:代理行為→授権行為取消し〉のケースにおいては表見代理による保護の余地を一切認めないというのでは、代理行為と取消しの時間的順序という偶然的要素によって相手方の保護の有無が異なってくることになり、妥当でない。

 

 3 相手方の正当な信頼

 行為当時において有効な代理権を有していた者の代理行為の相手方は、そもそも「他人が代理権を与えられていないことを知り、又は過失によって知らなかった」という事態が観念できず、常に表見代理が成立するのではないかとも考えられる。