会社法467条1項「事業」の意義
Q.会社法467条1項1号2号にいう「事業」は,判例上どう定義されていますか?
判例上は,次のように定義されています。
「 営業そのものの全部または重要な一部を譲渡すること、詳言すれば、一定の営業目的のため組織化され、有機的一体として機能する財産(得意先関係等の経済的価値のある事実関係を含む。)の全部または重要な一部を譲渡し、これによって、譲渡会社がその財産によって営んでいた営利的活動の全部または重要な一部を譲受人に受け継がせ、譲渡会社がその譲渡の限度に応じ法律上当然に同法25条(※現会社法21条)に定める競業避止義務を負う結果を伴うものをいう」(最高裁昭和40年9月22日判決)
Q.判例がそのように定義する理由は何でしょうか?
葉玉先生は,「事業」の意義について次のように述べられています。
一つ一つの財産が、それぞれの役割に応じて結びつき、利益を生み出すような形で保持されている財産の集まりを「客観的意義の事業」と言い、その客観的意義の事業(財産)を、役員や従業員等人の力で実際に動かして、利益を生み出していることを「事業活動」と言います。
法律的に言うと、客観的意義の事業は「有機的一体として機能する財産」と表現され、主観的意義の事業(事業活動)は「その財産によって営まれる活動」と表現されます。
判例にいう「一定の営業目的のため組織化され、有機的一体として機能する財産」とは,「客観的意義の事業」を指すと考えられます。そして,「譲渡会社がその財産によって営んでいた営利的活動」とは「事業活動」を指すと考えられます。
また,葉玉先生は,競業避止義務の発生する「事業の譲渡」 の意義につき,次のように述べられています。
私達が、譲受人に「明太子の製造販売事業」(事業活動)を売ったのならば、隣接市町村で同じ明太子屋をやるのは禁止されて当然ですが、「土地・店舗・食品加工設備など食品の製造販売を行うのに便利な財産セット」(客観的意義の事業)を売ったのならば、競業避止をかけるべきではない。
そういう価値観のもとで、21条1項の「事業の譲渡」は、事業活動の承継を含むものと解釈されているのです。