コム朝日記

廉価食パンについての哲学

代償請求権

Q.判例は,代償請求権についてどのように定義していますか?

最判昭41・12・23は,「一般に履行不能を生ぜしめたと同一の原因によって,債務者が履行の目的物の代償と考えられる利益を取得した場合には,公平の観念にもとづき,債権者において債務者に対し,右履行不能により債権者が蒙りたる損害の限度において,その利益の償還を請求する権利を認めるのが相当であ」ると判示しています。

 

Q.判例は,代償請求権の根拠をどこに求めていますか?

 前掲最判昭41は,「民法 536条 2項但書〔現行 2項後段〕の規定は,この法理のあらわれである」としています。

 しかし,536条2項後段は,債務者が自己の債務を免れたことによる利益の償還に関する規定であって,「目的物の代償と考えられる利益を取得した」ケースまでも包含するものではないと考えられます。したがって,同規定を判例の定義にいう代償請求権の十分な法的根拠とすることはできないと考えられます。

 百選Ⅱ6版9事件(田中宏治)も,判例の挙げる根拠は不適切であるとしています。

 

Q.では,代償請求権の根拠法的性質をどのように考えればよいのでしょうか?

 仮に不当利得として構成するならば,次のように考えることができるのではないでしょうか。

 すなわち,「目的物の代償と考えられる利益の取得」であっても,少なくとも当該利益移転の当事者間にあっては,当該利得に何らかの法律上の原因があると考えられます。したがって,当該利得を当然に法律上の原因を欠くものとして扱うことはできません。しかし,不当利得法の趣旨たる「公平の観念」にまで遡って考えれば,履行不能にかかる債務の債権者(X)-債務者(Y)間においては,当該利得を債務者に保持させておくことは実質的に「公平の観念」に反すると評価できますから,Xとの関係では,Yが取得した目的物の代償と考えらえる利益の保持には法律上の原因を欠くと評価することが可能です。

 ここでは,「目的物の代償と考えられる利益」をYに保持させておくことが「公平の観念」に反すると評価できることがポイントとなると考えられます。この評価を正当化するにあたって,民法が「公平の観念を欠く利得は吐き出させるべきである」という考え方を採っていることの証左として536条2項後段を挙げることは可能であると考えられます。もっとも,「利得の吐き出し」という効果を導く明文は存在しないことから,形式的には正当化される代償利益の保持について,「吐き出させるべき」という評価を加えることはかなり困難ではないかとも考えられます。