コム朝日記

廉価食パンについての哲学

請負人の担保責任:修補に代わる損害賠償と請負代金の同時履行

Q.修補に代わる損害賠償(634条2項)が選択された場合,請負人は,損害賠償債権を受働債権,請負代金債権を自働債権とする相殺ができるのですか。

 

Q.相殺がされない場合,634条2項後段によれば両債権は同時履行関係となりますが,注文主は請負代金全額との同時履行を主張できるのですか。

 注文者は,634条1項に基づく瑕疵修補を選択した場合には,瑕疵修補が完了し目的物が引き渡されるまでは,代金全額を支払う必要がありません(633条本文)。このことと,修補に代わる損害賠償を選択した場合との均衡を考えると,損害賠償と請負代金全額との同時履行は,原則として認めるべきと考えられます。

 しかし他方で,634条1項ただし書に当たるような場合には,注文者は瑕疵修補を請求をすることができず,損害賠償請求ができるにとどまります。このような場合には,注文者はそもそも修補に代わる損害賠償を請求することができません。この規定との均衡を考えると,瑕疵が軽微にとどまる場合においても報酬残債権全額について支払いが受けられないとなると,請負人にとって不公平な結果となってしまいます。

 そこで,このように修補に代わる損害賠償請求自体ができない場合にまでは至らなくとも,①瑕疵の内容が契約の目的や仕事の目的物の性質等に照らして重要でなく,かつ②その修補に要する費用が修補によって生ずる利益と比較して過分であると認められる場合には,③各契約当事者の交渉態度などの他の事情も併せ考慮して,報酬残債権全額との同時履行を主張することが信義則に反する場合もありえると考えられます(最判平9・2・14)。