コム朝日記

廉価食パンについての哲学

民法478条の主張と信義則

Q.無権限で預金を払戻した者に対する,預金債権者からの不当利得返還請求訴訟において,被告が「払戻しに準占有者弁済は成立しないから,預金債権は失われていない」と主張することはできますか?

最判平16・10・26】

X:原告,Y:被告,B:金融機関

「Yは,BはX相続分の預金の払戻しについて過失があるから、上記払戻しは民法478条の弁済として有効であるとはいえず、したがって、Xが本件各金融機関に対して被上告人相続分の預金債権を有していることに変わりはないから、Xには不当利得返還請求権の成立要件である「損失」が発生していないなどと主張して、Xの上記請求を争っている。」

「そこで検討すると、

 (1)Yは、Bから被上告人相続分の預金について自ら受領権限があるものとして払戻しを受けておきながら、Xから提起された本件訴訟において、一転して、Bに過失があるとして、自らが受けた上記払戻しが無効であるなどと主張するに至ったものであること、

 (2)仮に、Yが、本件各金融機関がした上記払戻しの民法478条の弁済としての有効性を争って、Xの本訴請求の棄却を求めることができるとすると、Xは、本件各金融機関が上記払戻しをするに当たり善意無過失であったか否かという、自らが関与していない問題についての判断をした上で訴訟の相手方を選択しなければならないということになるが、何ら非のないXがYとの関係でこのような訴訟上の負担を受忍しなければならない理由はないこと

などの諸点にかんがみると、Yが上記のような主張をしてXの本訴請求を争うことは、信義誠実の原則に反し許されないものというべきである。」