コム朝日記

廉価食パンについての哲学

包括一罪

 包括一罪は,複数の犯罪が成立するようにみえるが,包括的な評価により全体が一罪として処断される場合をいう(条解刑法)。

 包括一罪の根拠は,①行為の一体性,及び②法益侵害の一体性に求められる。

 ①行為の一体性により,複数の意思決定・行為により法益を侵害した場合に比して責任を全体として軽く評価することが可能となること,②法益侵害の一体性により,複数の法益侵害を個別・独立に惹起した場合に比して違法性を全体として軽く評価することが可能となること,の各点が包括一罪処理の根拠となる(山口)。

 

 ①行為の一体性は,日時・場所の近接性,機会の同一性,行為態様の共通性,意思の単一性・継続性などを考慮し,各行為間に密接な関係があると評価できる場合に肯定される。

 行為の一体性については「被告人と被害者との特殊な人的関係を背景とした状況の中で,その関係性にかかわる日常的な行動圏内の各場所で犯行がなされたという共通性は,単なる場所の遠近という観点とは別に,行為の一体性の要素としての意味を持つと思われる」(最決平26調査官解説)とされ,単純な物理的状況のみにとどまらない評価が必要とされる。

 意思の継続性については,「被告人において,共通の事情(人間関係)を背景として,共通の動機から,繰り返し範囲が沸き起こったというものであり,犯意の発現は断続的であるものの,その基底において意思が継続していると評価できる」(最決平26調査官解説)といった処理も可能である。

 

 法益侵害の一体性は,「そもそも同じ身体に傷害結果が積み重なっていくのであるから,期間中に繰り返された一連の暴行によって生じた傷害を,まとめて一つの傷害結果(一つの法益侵害)と捉えることもでき」る(最決平26調査官解説)とされているように,侵害対象たる法益につきある程度の抽象化を行うことで肯定する処理を行うことも可能である。

 

最決平26・3・17

検察官主張に係る一連の暴行によって各被害者に傷害を負わせた事実は,いずれの事件も,約4か月間又は約1か月間という一定の期間内に,被告人が,被害者との上記のような人間関係を背景としてある程度限定された場所で,共通の動機から繰り返し犯意を生じ主として同態様の暴行を反復累行し,その結果,個別の機会の暴行と傷害の発生,拡大ないし悪化との対応関係を個々に特定することはできないものの,結局は一人の被害者の身体に一定の傷害を負わせたというものであり,そのような事情に鑑みると,それぞれ,その全体を一体のものと評価し,包括して一罪と解することができる。

 

違法収集証拠排除法則

排除法則の導出・排除基準

最判昭53・9・7

違法に収集された証拠物の証拠能力については、憲法及び刑訴法になんらの規定もおかれていないので、この問題は、刑訴法の解釈に委ねられているものと解するのが相当であるところ、刑訴法は、「刑事事件につき、公共の福祉の維持と個人の基本的人権の保障とを全うしつつ、事案の真相を明らかにし、刑罰法令を適正且つ迅速に適用実現することを目的とする。」(同法一条)ものであるから、違法に収集された証拠物の証拠能力に関しても、かかる見地からの検討を要するものと考えられる。

 ↓

ところで、刑罰法令を適正に適用実現し、公の秩序を維持することは、刑事訴訟の重要な任務であり、そのためには事案の真相をできる限り明らかにすることが必要であることはいうまでもないところ、証拠物は押収手続が違法であつても、物それ自体の性質・形状に変異をきたすことはなく、その存在・形状等に関する価値に変りのないことなど証拠物の証拠としての性格にかんがみると、その押収手続に違法があるとして直ちにその証拠能力を否定することは、事案の真相の究明に資するゆえんではなく、相当でないというべきである。

 ↓

しかし、他面において、事案の真相の究明も、個人の基本的人権の保障を全うしつつ、適正な手続のもとでされなければならないものであり、ことに憲法三五条が、憲法三三条の場合及び令状による場合を除き、住居の不可侵、捜索及び押収を受けることのない権利を保障し、これを受けて刑訴法が捜索及び押収等につき厳格な規定を設けていること、また、憲法三一条が法の適正な手続を保障していること等にかんがみると、証拠物の押収等の手続に、憲法三五条及びこれを受けた刑訴法二一八条一項等の所期する令状主義の精神を没却するような重大な違法があり、これを証拠として許容することが、将来における違法な捜査の抑制の見地からして相当でないと認められる場合においては、その認拠能力は否定されるものと解すべきである。

<論証案>

 確かに,証拠の収集手続に違法があっても,証拠物自体の性質・形状に関する価値に変わりはないから,事案の真相を明らかにするため(刑訴法1条),当該証拠の証拠能力を直ちに否定することはできない。

 しかし,事案の真相究明も,人権保障を全うしつつ適正な手続(憲法31条)のもとでなされなければならず〔法規範説〕,またそのような証拠を全て採用するとすれば司法の廉潔性にも反し〔司法の廉潔性説〕,さらに将来の違法捜査を抑圧するために証拠を排除すべきであるともいえる〔抑止効説〕

 そこで,一定の場合には,証拠の収集手続の違法を理由として証拠能力が否定されるべきであると解する。具体的には,

  • [1]軽微な違法であれば実体真実発見(刑訴法1条)が優先すべきであるから,証拠収集手続に,令状主義の精神を没却するような重大な違法があり
  • [2]将来の違法な捜査の抑制の見地からして排除が相当である

場合には,証拠能力が否定されると解する。

 

 

[1]違法重大性のあてはめ

捜査機関の令状主義潜脱意図

-「巡査において令状主義に関する諸規定を潜脱しようとの意図があったものではなく」

強制処分該当性/任意処分の限界を超えた程度

-「強制等のされた事跡も認められない」

-「所持品検査として許容される限度をわずかに超えて行われたにすぎない」

令状主義の内容

A 令状を要する処分なのに,令状を請求せず行った

B 令状執行の瑕疵

C 令状審査の適正

 

[2]派生証拠排除

 違法な一連の手続→採尿手続→証拠

最決昭61・4・24

本件においては、被告人宅への立ち入り、同所からの任意同行及び警察署への留め置きの一連の手続採尿手続は、被告人に対する覚せい剤事犯の捜査という同一目的に向けられたものであるうえ、採尿手続は右一連の手続によりもたらされた状態を直接利用してなされていることにかんがみると、右採尿手続の適法違法については、採尿手続前の右一連の手続における違法の有無、程度をも十分考慮してこれを判断するのが相当である。

  ↓

そして、そのような判断の結果、採尿手続が違法であると認められる場合でも、それをもつて直ちに採取された尿の鑑定書の証拠能力が否定されると解すべきではなく、その違法の程度が令状主義の精神を没却するような重大なものであり、右鑑定書を証拠として許容することが、将来における違法な捜査の抑制の見地からして相当でないと認められるときに、右鑑定書の証拠能力が否定されるというべきである。

 

 違法な逮捕→任意採尿→尿鑑定書→捜索差押→覚醒剤

最判平15・2・14

〈逮捕の重大違法性〉

本件逮捕には,逮捕時に逮捕状の呈示がなく,逮捕状の緊急執行もされていない(逮捕状の緊急執行の手続が執られていないことは,本件の経過から明らかである。)という手続的な違法があるが,それにとどまらず,警察官は,その手続的な違法を糊塗するため,前記のとおり,逮捕状へ虚偽事項を記入し,内容虚偽の捜査報告書を作成し,更には,公判廷において事実と反する証言をしているのであって,本件の経緯全体を通して表れたこのような警察官の態度《Q1》を総合的に考慮すれば,本件逮捕手続の違法の程度は,令状主義の精神を潜脱し,没却するような重大なものであると評価されてもやむを得ないものといわざるを得ない。

 ↓

【密接関連証拠排除法則】

そして,このような違法な逮捕に密接に関連する証拠を許容することは,将来における違法捜査抑制の見地からも相当でないと認められるから,その証拠能力を否定すべきである(最高裁昭和51年(あ)第865号同53年9月7日第一小法廷判決・刑集32巻6号1672頁参照)。

 ↓

〈尿鑑定書〉=一次証拠

本件採尿は,本件逮捕の当日にされたものであり,その尿は,上記のとおり重大な違法があると評価される本件逮捕と密接な関連を有する証拠であるというべきである。また,その鑑定書も,同様な評価を与えられるべきものである。したがって,原判決の判断は,上記鑑定書の証拠能力を否定した点に関する限り,相当である。

覚醒剤〉=派生的証拠

本件覚せい剤は,被告人の覚せい剤使用を被疑事実とし,被告人方を捜索すべき場所として発付された捜索差押許可状に基づいて行われた捜索により発見されて差し押さえられたものであるが,上記捜索差押許可状は上記(2)の鑑定書を疎明資料として発付されたものであるから,証拠能力のない証拠と関連性を有する証拠というべきである。
←しかし,本件覚せい剤の差押えは,司法審査を経て発付された捜索差押許可状によってされたものであること逮捕前に適法に発付されていた被告人に対する窃盗事件についての捜索差押許可状の執行と併せて行われたものであること《Q2》など,本件の諸事情にかんがみると,本件覚せい剤の差押えと上記(2)の鑑定書との関連性は密接なものではないというべきである。

→したがって,本件覚せい剤及びこれに関する鑑定書については,その収集手続に重大な違法があるとまではいえず,その他,これらの証拠の重要性等諸般の事情を総合すると,その証拠能力を否定することはできない。

1 密接関連証拠排除法則

 本判決においては,①逮捕手続の違法性につき「令状主義の精神を潜脱し,没却するような重大なもの」であることを認定したうえ,②「密接に関連する証拠」を「将来における違法捜査抑制の見地からも相当でない」ゆえに排除する,という枠組みが見える。これは最判昭53の排除基準とパラレルに整理できるものであり,基準のうちの排除相当性要件の内容(ないしあてはめにおける考慮要素)が,直接収集証拠についての排除が問題となる事案(最判昭53)と最決平15とで異なっているにすぎないと考えられる。

 本件における派生的証拠(覚醒剤)の排除にあたっては,「その収集手続に重大な違法があるとまではいえず」という違法承継類似の説示が現れていることをもって,違法承継論を引きずった判断手法をとっているとの評価もなされているようである。しかし,この点については目をつぶり,本決定は純粋に因果性を排除相当性要件の中で「密接関連性」として検討したものである(=川出説と全く同じロジックである)と読み替えて(?),本判例に根差した事案処理を行っても差し支えないと思われる。

 結局,本件のような事案でのあてはめにおいては,

  • ①違法重大性の要素:手続的違法+令状主義潜脱意図
  • ②排除相当性の要素:手続違反と証拠の因果性,証拠の重大性,事案の重大性

という考慮要素の振り分けを行えばよいと考えられる。

 

2 警察官の事後行為の考慮

  • 積極-事後の糊塗行為により,違法行為時の令状主義潜脱の意思を推認し,違法行為時の違法の重大性を推認することが可能である。
  • 消極-過失により結果的に糊塗行為がなされる場合があり,この場合には令状主義潜脱が直ちに推認できない。

 

3 密接関連性の切断

  • 司法審査の経由=【希釈法理】違法性を帯びた尿鑑定書のみならず,他の疎明資料もあいまって捜索差押許可状の発布を受けている
  • 適法な令状の執行と併せて行われた=【不可避的発見法理】結局窃盗被疑事件による通常捜索の執行の際に覚醒剤が発見され,覚醒剤所持の現行犯逮捕に伴う差押えにより差押えられていた蓋然性

 

〈論証案〉

 違法な手続から派生した証拠についても,当該手続から直接に得られた証拠でないことをもって証拠排除ができないとするのは排除法則の趣旨を没却するから,派生証拠についても一定の場合には証拠能力を否定すべきである。

 もっとも,すべての派生証拠の証拠能力を否定すると,あまりに真実発見が害される。

 そこで,①令状主義の精神を潜脱し,没却するような重大な違法がある手続に,②密接に関連する証拠を,③許容することが将来における違法捜査抑制の見地からも相当でない(事案の重大性,証拠の重要性などを考慮する)と認められる場合には,証拠能力を否定すべきであると考える。

* 最決平15の言い回しをできる限り使い,かつ論理の内実は川出説に従うという方針で判断枠組みを定立すると,上記のようになると思われる。

** 最決平15は覚醒剤の証拠能力判断にあたり,違法重大性の検討対象たる「収集手続」として直接の獲得手段である捜索・差押を設定していると思われるが,上記〈論証案〉における違法重大性の検討対象はあくまで「出発点」たる手続であって,この点で最決平15とロジックの差異が生じていることになる。この点,最決平21年9月28日は,証拠収集過程の重大違法性,エックス線検査と証拠の関連性,証拠の重大性に着目した判断を行っており,最決平15よりもいっそう川出説に近いのではないかと考えられる。

*** 川出説によれば,①違法の程度→②因果関係の程度→③排除の相当性(証拠の重要性,事件の重大性)という判断枠組みをとることになるが,これを最決平15を意識した形でモディファイし,②を「密接関連性」という表現で置き換えたものが,上記〈論証案〉である。

 

 手続違反と証拠獲得の間の因果性

最決平8・10・29

警察官が捜索の過程において関係者に暴力を振るうことは許されないことであって、本件における右警察官らの行為は違法なものというほかはない。

 ↓

しかしながら、前記捜索の経緯に照らし本件覚せい剤の証拠能力について考えてみると、右警察官の違法行為は捜索の現場においてなされているが、その暴行の時点は証拠物発見の後であり、被告人の発言に触発されて行われたものであって、証拠物の発見を目的とし捜索に利用するために行われたものとは認められないから、右拠物を警察官の違法行為の結果収集された証拠として、証拠能力を否定することはできない。

 

  • α)違法行為と証拠獲得との間に因果性を欠く証拠は,排除されない。
    〔抑止効説〕証拠獲得と因果性ある違法行為を証拠排除することで,時初めて違法行為に対する抑止効果が発生する。
    〔廉潔性説〕「違法行為の結果として獲得されたものではなく,その証拠能力を肯定したとしても,裁判所が捜査の違法に手を貸したということにはならないであろうから,裁判所の無瑕性は依然として確保されているということができよう」*1

 

  • β)因果性を欠く証拠でも,排除の余地はある*2

「証拠物発見の前か後かという点のみに目が奪われがちであるが,それに劣らず,違法行為の性質が問われるべきであろう。」

「警察官は,その際の被告人の『そんなあほな』などという発言に触発されて暴行に及んだというのであるから,その暴行は,証拠物発見後とはいえ,捜査に密着したものであって,やはり捜索行為の一部であるとの見方もあり得ないものではなく,その限界は微妙であるといえよう。この点は,警察官が暴行に至った経緯や動機がどのようなものであったのかにかかわるわけであり,結局のところ事実認定の問題に帰する部分が大きいのではないかと思われる


どのような違法行為が介在したとしても,証拠物発見との間に因果関係さえなければ証拠能力を否定されないというように判旨を一般化して受け取るべきではあるまい

 

*1:最決平8調査官解説

*2:最決平8調査官解説

株主提案権

議題提案の適法性

 まずは,303条の定める形式要件(行使期間制限,持株要件)をクリアしていることが要求される。

 形式要件をクリアしたうえで,当該議題が「議決権を行使することができる事項」の範囲に含まれているかが問題となる。ここでは,(A)請求を行う株主が当該事項について議決権を行使できるかどうかに加え,(B)その前提としてそもそも当該事項が総会決議によって決定できる事項かどうかが問題となる。

 ※取締役会設置会社を念頭におく

 

 

提案権行使後・総会前に持株要件を欠くに至った場合

 この場合,2通りの考え方がありうる。

  •  ア:基準日(124条)において株主であったのならば,その後に名義書換がなされない限りその者は株主総会において議決権を行使できる。これと同様に考えて,基準日において持株要件を充足していれば足りると考える。
  •  イ:株主総会終結時において持株要件が維持されている必要がある。

 株主提案権を,総株主のための権利とみるか(ア),提案を行う個々の株主のための権利とみるか(イ)によって見解の差異が生じる。

 ひとたび適法に請求を行ってしまえば,かかる請求にかかる議題について検討することが株主全体の利益に資すると考えると,アの見解支持に傾く。一方で,提案を行った当の株主が総会の時点で既に退社しているならば,もはや当該株主が当初提案によって得ようとした利益を実現する必要はないと考えると,イの見解支持に傾く。

 もっとも,これらの価値判断とは別に,適法な株主提案が行われた後総会までの間に当該請求を行った株主が退社したかどうかを逐一把握すべきとすることは煩雑にすぎるという実務上の要請も考慮しなければならない。そこで,結果としてアの価値判断に傾くこととはなるが,持株要件充足の判断は「基準日」または「請求日」のいずれか遅い時点を基準に行うべきと考える。

 

議案を伴わない議題提案

 株主1000人以上の株式会社においては株主総会において書面投票を可とすることが義務付けられ(298条2項本文・同1項3号),これを行う場合に送付しなければならない株主総会参考書類(301条1項)には「議案」を記載しなければならない(会社規則65条1項・同73条1号)。また,株主総会の招集通知においても「議案」を(299条4項・298条1項5号・会社規則63条3号イ・同73条1項1号)。したがって,議案を伴わない議題のみの提案では,適法な株主総会参考書類・招集通知送付を行えないため,当該提案は不適法である。

 ※書面投票を義務付けられない会社においては,フロア提案(304条)を行えば足りる。

 

剰余金配当(定款に459条1項4号の定めがある場合)

 459条1項4号は,剰余金配当に関する決定を取締役会の決議にかからせることができることについて定める。この規定に従い,取締役会が剰余金配当に関する決定を行うことを定款において定めていた場合に,株主総会において剰余金配当に関する決議ができるかが問題となるが,459条1項4号はあくまで取締役会に対する権限の「付与」について定めたものであり,株主総会において剰余金配当に関する決議ができなくなるかという点についてまで同規定によって明らかになるわけではない。この点については,460条1項により,459条1項の規定による定款の定めがある場合には,株主総会は,同項各号に掲げる事項を株主総会の決議によっては定めない旨を定款で定めることができるとされているのであり,これをもって初めて株主総会が当該事項について決議することができるか・できないかが決まるのである。

 したがって,460条1項の規定による定款の定めがある場合には,株主総会決議をもって剰余金配当に関する決定ができないことになり,これによって当該事項は「議決権を行使することができる事項」に含まれないことになるから,議題提案権の行使はその要件を満たさず不適法となる。ただし,この場合,〔1〕460条1項の規定による定款の定めを廃止する旨の定款変更を行い(466条・309条2項11号),〔2〕そのうえで下記のような株主提案を行って株主総会決議をもって剰余金配当に関する決定を行うという手段をとることはできる(二段構え作戦)。

 一方で,460条1項の規定による定款の定めがない場合には,株主総会決議をもって剰余金配当に関する決定を行うことは会社法上排除されていないことになり,これによって当該事項は「議決権を行使することができる事項」に含まれることになるから,議題提案権の行使はその要件を満たし適法となる。

 

株式分割承認

 183条2項は,株式分割の承認を取締役会決議事項としている。この規定をもって,株式分割の承認に関する株主総会の権限は排除されていることになるから,当然には「議決権を行使することができる事項」(303条1項)に該当することにはならない。この場合にも,前述のような二段構え戦略をとることは可能である。

 

特定の業務執行についての提案

 取締役会設置会社においては,取締役会は会社の業務執行の決定(362条2項1号)を行うこととされており,所有と経営の分離という株式会社制度の本質が強調されることになる。

 そこで,取締役会設置会社株主総会は,特定の業務執行についての決定をすることはできないと解すべきである。したがって,特定の業務執行についての提案は,「議決権を行使することができる事項」についての提案とはいえず,株主提案の不適法である。

 ただし,この場合もいわゆる「二段構え戦略」(295条2項「定款で定めた事項」に当該特定の業務執行についての決定を含める旨の定款変更(466条・309条2項11号)を行ったうえで,当該特定の業務執行についての提案を行う)を採ることは可能である。

 

すべての業務執行を総会決議事項とする議題提案

 この場合,「議決権を行使することができる事項」であることの前提としての,株主総会が決議することができる事項(295条2項)への該当性が問題となる。

 株式会社においては,株主が実質的所有者であるが,一般株主は経営の意思も能力もないのが通常であるため,経営の合理化を図るべく,経営は取締役に委ねられている(295条2項参照)。

取締役会設置会社においては,業務執行は取締役会の権限とされる(362条2項1号)が,これもまた同様に経営の合理化のために取締役への権限委譲を行うものである。そして,たしかに株主意思により取締役会の権限たる業務執行に関する決定事項を定款で総会決議事項とすることは認められるが(295条2項「定款で定めた事項」),業務執行のすべてを総会決議事項としてしまうことは,取締役会制度の存在意義を没却するものであり,許されない。

したがって,すべての業務執行を総会決議事項とする定款変更は,株主総会が決議することができる事項に含まれないから,「株主が議決権を行使することができる事項」ではない。

よって,係る提案は不適法である。

 

総会終結をもって任期満了退任する取締役の解任提案

東京地決平26・9・30

「被告らは、当該株主総会の終結をもって任期が満了する取締役の解任を求める議案は、それが株主総会の終了時までという極めて短期間の任期を問題として、実質的に役員の資格のない者を解任しようとするものであって、あえて解任につき決議をする必要性に乏しいから、被告会社が71期提案を招集通知に記載しなかったことには正当な理由があると主張する。

 しかしながら、解任の有無は、当該株主総会における当該取締役の権利義務等法的地位に影響する可能性があり、また、仮に、株主総会の終結をもって取締役が任期満了により退任したとしても、新たな取締役が選任されず、取締役が欠けたり、法律又は定款で定めた取締役の員数が欠けた場合、任期満了により退任した取締役は新たに取締役が就任するまでなお取締役としての権利義務を有する(会社法346条1項)のに対して、解任された取締役の場合は、上記権利義務を有しない。

 このように、取締役が任期満了により退任する場合と解任決議により終任する場合とでは、法律上も取扱いが異なっており、当該株主総会の終結をもって任期が満了するという理由で、解任決議を行う必要がないということはできない。」

 

 

 

当然の二段構え戦略?

 〔1〕定款変更→〔2〕改めて提案,という二段構え戦略を採らなければ当該事項に関する提案は不適法である場合に,〔1〕の提案がなされていなくても,〔2〕の提案があったとみてよいかどうかが問題となる。

 しかし,株主が最終的に企図する個別の提案と異なり,定款変更は当該事項にとどまらず当該会社の活動一般に影響することを考えると,当初の個別の提案をもって〔1〕の定款変更の提案があったとみることは妥当でない。

 そこで,当然に二段構え戦略がとられたとみることはできない。

 

提案議題が付議されなかった場合の効果

東京高判平23・9・27

原則

株主総会等の招集の手続が法令若しくは定款に違反し、又は著しく不公正なときのほか、決議の方法が法令若しくは定款に違反し、又は著しく不公正なときにも株主総会等の決議の取消しの訴えをもって当該決議の取消しを請求することができるが(会社法831条1項1号)、同号にいう決議とは株主総会において形成力を生ずる事項を内容とする議案が所定の手続を踏んで可決された場合における当該決議をいい、可決された上記議案とは別に、株主が同法303条所定の要件を備えて一定の事項を株主総会の目的とすることを請求したが株主総会において取り上げられなかったものがあっても、そのことは、原則として当該決議の取消しの事由には当たらず、」

例外

「例外的に、

  • 〈1〉当該事項が株主総会の目的である事項と密接な関連性があり、株主総会の目的である事項に関し可決された議案を審議する上で株主が請求した事項についても株主総会において検討、考慮することが必要、かつ、有益であったと認められるときであって、
  • 〈2〉上記の関連性のある事項を株主総会の目的として取り上げると現経営陣に不都合なため、会社が現経営陣に都合のよいように議事を進行させることを企図して当該事項を株主総会において取り上げなかったときに当たるなど、特段の事情が存在する場合
に限り、同法831条1項1号に掲げる場合に該当すると解するのが相当である。」