コム朝日記

廉価食パンについての哲学

新株予約権の行使条件決定の委任【会社百選29】

【会社百選3版29事件】最判平24・4・24

*本判例と類似の事例に関する問題が,平成27年司法試験論文式民事系第2問〔設問3〕において出題されています。

*別冊法学セミナー司法試験の問題と解説2015における大杉謙一教授の解説を参考としました。

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Q.新株予約権の行使条件の決定を,取締役会に委任することはできるのでしょうか?

 新株予約権の行使条件は,「新株予約権の内容」(会社法239条1項1号)にあたります。したがって,条文上は,新株予約権の行使条件は必ず総会決議で定めることが必要であることになりますから,形式的にはその決定の取締役会への委任はできないという結論になります。
 しかし,同項の趣旨は,新株予約権の発行により既存の株主がこうむる不利益の上限が総会決議によって画されていることを条件として,細目の決定を取締役会に委任することを可能にするという点にあります。そして,行使条件は,それが付されることにより新株予約権者による権利行使を制限するものであり,既存株主の利益を制限するものではありません。そうだとすれば,行使条件の内容の決定を取締役会に委任しても,同項の趣旨に反する結果にはならないといえます。
 したがって,行使条件の決定を取締役会に委任することは可能であると考えられます。
 最判平24も,「旧商法280 条ノ21 第1 項は、株主以外の者に対し特に有利な条件をもって新株予約権を発行する場合には、同項所定の事項につき株主総会の特別決議を要する旨を定めるが、同項に基づく特別決議によって新株予約権の行使条件の定めを取締役会に委任することは許容されると解される」として,委任が許されるとしています。

 

Q.委任によって取締役会が一度決定した行使条件を,その後取締役会かぎりで変更することは可能でしょうか?

 最判平24は,上述のように委任が認められるとしても,その趣旨について「株主総会は、当該会社の経営状態や社会経済状況等の株主総会当時の諸事情を踏まえて新株予約権の発行を決議するのであるから、行使条件の定めについての委任も、別途明示の委任がない限り、株主総会当時の諸事情の下における適切な行使条件を定めることを委任する趣旨のものであり、一旦定められた行使条件を新株予約権の発行後に適宜実質的に変更することまで委任する趣旨のものであるとは解されない」と判示しています。
 そしてこれに続き,最高裁は「上記委任に基づき定められた行使条件を付して新株予約権が発行された後に、取締役会の決議によって行使条件を変更し、これに沿って新株予約権を割り当てる契約の内容を変更することは、その変更が新株予約権の内容の実質的な変更に至らない行使条件の細目的な変更にとどまるものでない限り、新たに新株予約権を発行したものというに等しく、それは新株予約権を発行するにはその都度株主総会の決議を要するものとした旧商法280 条ノ21 第1 項の趣旨にも反するものというべきである」として,事後の取締役会かぎりの行使条件変更が,行使条件の定めについての委任の趣旨(ひいてはそのような委任を許容する会社法の趣旨)に反するとしています。
 ここからは,<①行使条件を付すという制限的方向の決定を委任することは許されるが,②ひとたび行使条件が定められたならばそのことをもって株主の意思の確定的な発現として扱うことを要するから,③事後的に行使条件を緩和方向に変更することは,その株主の確定的な意思に反し取締役会限りで新株予約権を新規発行したのと同様の結果を招くことになるから,これは許されない>という考え方が読み取れると思います。

 最高裁は結論として,「取締役会が旧商法280 条ノ21 第1 項に基づく株主総会決議による委任を受けて新株予約権の行使条件を定めた場合に、新株予約権の発行後に上記行使条件を変更することができる旨の明示の委任がされているのであれば格別、そのような委任がないときは、当該新株予約権の発行後に上記行使条件を取締役会決議によって変更することは原則として許されず、これを変更する取締役会決議は、上記株主総会決議による委任に基づき定められた新株予約権の行使条件の細目的な変更をするにとどまるものであるときを除き、無効と解するのが相当である」という解釈を示しています。

 

Q.最高裁の解釈にしたがい,行使条件を変更する取締役会決議が無効であるとされた場合,当該決議に基づき発行された新株予約権の行使による株式発行の効力はどうなるのでしょうか?

 最高裁は,非公開会社は,新株発行の募集事項の決定は原則として総会特別決議によること(199条),株式発行無効の訴えの提訴期間が1年(公開会社は6か月)とされていること(828条1項2号)に鑑みれば,「非公開会社については,その性質上,会社の支配権に関わる持株比率の維持に係る既存株主の利益の保護を重視し,その意思に反する株式の発行は株式発行の訴えにより救済するというのが会社法の趣旨と解される」という趣旨解釈を展開します。
 そのうえで最高裁は,「非公開会社において,株主総会の特別決議を経ないまま株主割当て以外の方法による募集株式の発行がされた場合,その発行手続には重大な法令違反があり,この瑕疵は上記株式発行の無効原因になると解するのが相当である」として,無効原因該当性についての解釈を示します。
 そして,①「非公開会社が株主割当て以外の方法により発行した新株予約券に株主総会によって行使条件が付された場合」であって,②「この行使条件が当該新株予約権を発行した趣旨に照らして当該新株予約権の重要な内容を構成しているとき」には,「上記行使条件に反した新株予約権の行使による株式の発行は,これにより既存株主の持株比率がその意思に反して影響を受けることになる点において,株主総会の特別決議を経ないいまま株主割当て以外の方法による募集株式の発行がされた場合と異なるところはない」から,「上記の新株予約権の行使による株式の発行には,無効原因があると解するのが相当である」とします。これは,上述の無効原因該当性の解釈へのあてはめといえます。
 さらに,上場条件は「本件新株予約権の重要な内容を構成していることも明らか」であるとして,上述②にあたるといい,したがって「上場条件に反する本件新株予約券の行使による本件新株発行には,無効原因がある」としめくくります。