コム朝日記

廉価食パンについての哲学

口頭弁論の再開

最判昭56・9・24】

Q.最高裁は,口頭弁論再開における裁判所の裁量について,どのように考えているのでしょうか?

 民訴法153条は「裁判所は,終結した口頭弁論の再開を命ずることができる」と規定しています。「できる」という文言は,最高裁が「いつたん終結した弁論を再開すると否とは当該裁判所の専権事項に属し、当事者は権利として裁判所に対して弁論の再開を請求することができない」として口頭弁論の再開が裁判所の裁量にかかる事項であることを判示していることを説明できます。
 しかし最高裁は,「裁判所の右裁量権も絶対無制限のものではなく、弁論を再開して当事者に更に攻撃防禦の方法を提出する機会を与えることが明らかに民事訴訟における手続的正義の要求するところであると認められるような特段の事由がある場合には、裁判所は弁論を再開すべきものであり、これをしないでそのまま判決をするのは違法であることを免れないというべきである」として,弁論を再開しないことが裁判所にとっての行為規範のみならず評価規範に反することになる場合があることを示しています。
 ※「民事訴訟における手続的正義」を要求する法的根拠(具体的条文)は何でしょうか?

 

Q.「特段の事情」として,どのような点を指摘していますか?

 まず,① 「上告人はAが原審の口頭弁論終結前に死亡したことを知らず、かつ、知らなかつたことにつき責に帰すべき事由がないことが窺われる」点です。
 次に,②「主張は、本件において判決の結果に影響を及ぼす可能性のある重要な攻撃防禦方法ということができ」る転です。
 そして,③「上告人においてこれを提出する機会を与えられないまま上告人敗訴の判決がされ、それが確定して本件各登記が抹消された場合には、たとえ右主張どおりの事実が存したとしても、上告人は、該判決の既判力により、後訴において右事実を主張してその判断を争い、本件各登記の回復をはかることができないことにもなる関係にある」点を指摘しています。
 結論として最高裁は,本件のような事実関係のもとにおいては、「自己の責に帰することのできない事由により右主張をすることができなかつた上告人に対して右主張提出の機会を与えないまま上告人敗訴の判決をすることは、明らかに民事訴訟における手続的正義の要求に反するものというべきであり、したがつて、原審としては、いつたん弁論を終結した場合であつても、弁論を再開して上告人に対し右事実を主張する機会を与え、これについて審理を遂げる義務があるものと解するのが相当である」として,「弁論再開についての訴訟手続に違反した違法」を認定しています。

 

Q.この判例はどのように”使う”ことができるでしょうか?

 百選4版41事件解説〔安西明子〕は,「特段の事情」を基礎づける上記①~③の事項をそれぞれ次のように整理しています。すなわち,ⓐ弁論終結前にその攻撃防御方法の存在を知らず,知らなかったことに当事者の帰責事由がない,ⓑ判決結果に影響を及ぼす可能性のある重要な攻撃防御方法を提出するための再開申請である,ⓒ弁論が再開されず判決が確定すると既判力により後訴で当該攻撃防御方法を主張できない,という3点の整理です。
 当事者の手続保障が満たされなかった場合,「そもそも帰責事由なく提出できない場合には遮断効は及ばないとして,むしろ既判力論を再考しようとする」学説もあるようです。「手続的正義」の実現を当事者の手続保障に収斂させて考えれば,このような既判力の縮減という構成によることも考えられましょう。
 もっとも,既判力の画一性を重視する方向の解釈を行おうとするならば,本判決のように係属中の訴訟の弁論再開という形で当事者の手続保障を図ることもひとつの方法であると考えられます。