コム朝日記

廉価食パンについての哲学

旧司平4民1 譲渡担保,取得時効,賃借権の物権的効力

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【回答】

第1.AD間の法律関係

1.結論

 DはBから本件建物の所有権を承継取得している。Aは,Bに対する弁済の提供以後自主占有を開始しているので,その時点から20年を経過していれば本件建物の所有権を原始取得する。20年経過前にDが本件建物を取得している場合は,登記なしにAは所有権をDに対抗できる。20年経過後にDが本件建物を取得している場合は,登記のないAは所有権をDに対抗できない。

 

2.理由(Dの承継取得)

 まず,Aは貸金債権を担保するために本件建物をBに譲渡している。詳細不明だが,当該譲渡担保設定契約の当事者の合理的な意思解釈として,
①担保権を設定する
②所有権移転登記をして公示する(実質は担保権だが所有権移転登記で代替)
③担保権実行まではAが占有し使用収益できる
④被担保債権(貸金債権)不払いとなれば,Bは清算金を提供することにより,Bに確定的に所有権が帰属する(帰属清算)
⑤帰属清算後は,Aは本件建物を明け渡さなければならない
⑥Aが清算金を受領しないときは,清算金支払債務は期限の定めのない債務となり,Bは請求を受けた時から遅滞の責任を負う(民法第412条)
⑦一旦Bに帰属が確定した後は,AはBの承諾がない限り取戻しできない。
というのが概要考えられる。本件では,Bは譲渡担保契約の手続きに則って清算をしており,既にBに確定的に所有権が帰属しており,所有権の公示にも欠けるところはない。そのうえで,BはDへ適法に本件建物を譲渡しており,Dは所有権を取得している(民法第555条)。

 

3.理由(Aの時効取得)

 上記のように,譲渡担保契約及び清算の実行によりAは所有権を喪失しているが,長期間の占有により時効取得成立の余地はある。本件で時効の起算点がいつかが問題となるが,まず,担保権設定後はAの占有は他主占有となり,時効は開始されない(民法第162条第1項「所有の意思」がない。)。本件では,AがBに借入債務の弁済の提供をして以降,「自己に占有をさせた者に対して所有の意思があることを表示し」たことにより,占有の性質が変更されたとみるべきである(民法第185条)。なお,本件は,Bに確定的に所有権が帰属しており,Aは善意占有とはならない(弁済の提供により取戻しができたとAが考えたとしてもそれは法の不知というものである。)。

 ここから長期間Cに賃貸していたということでAは代理占有を行っており(民法第181条),占有は継続している(と推定される。民法第186条第2項)。20年経過時に時効取得の要件を満たす(民法第162条)。

 ただし,Aが時効取得をDに登記なしに対抗できるのは,時効完成時にすでにDが本件建物を所有していた場合に限る(物権変動の当事者であり,民法177条の「第三者」に当たらない。)。そうではなく時効完成時はBが本件建物を所有しており,時効完成後にDがBから所有権を取得している場合は,Bを起点とする二十譲渡類似の関係に立つため,Aは登記なく時効取得を第三者Dに対抗できず(民法第177条),登記を有しているDが本件建物を確定的に取得することになる。

 

第2.CD間の法律関係

1.結論

 Aが本件建物を時効取得しDに対抗できる場合,Dは無権利者であり,CD間は何ら法律関係を生じない。CはAの取得時効を援用できる(民法第145条「当事者」とは,時効により直接に利益を受ける者,すなわち取得時効により権利を取得する者をいう(判例))。

 A本件建物を時効取得していない場合は,無権利者からの賃借であり,CはDに対し賃借権を主張する基礎を有しないが,Cが10年間賃借を継続していれば,Cは賃借権をDに対抗できる。なお,CがDに賃借権を対抗する場合,Dは賃貸人の地位に立つことになる(判例)。

 Aが本件建物を時効取得するもののDに対抗できない場合,Aから賃借権の設定を受けたCはDと対抗関係に立ち,Cが建物の引渡しをDの登記より先に受けているので,Cが賃借権をDに対抗できる(民法第177条,借地借家法第31条第1項)。上記同様CはAの取得時効を援用できる。以下,Cによる賃借権の時効取得に関して説明する。

 

2.理由(Cによる賃借権の時効取得)

 不動産賃借権は物権的な効力を認められている。民法第605条及び借地借家法第31条の対抗力(第三者への対抗)はその表れである。このように,不動産を目的とする賃借権は一般の債権とは異なり物権的な効力を有していることから,賃借権の時効取得は認められると解すべきである。他方,真の権利者の時効中断の機会を保障する必要もあるため,①継続的な用益という外形的事実の存在,②賃借の意思に基づくことが客観的に表明されていることを要件とすべきである(判例)。

 本問においては,Cは①建物を継続して用益し(継続性は推定される。民法第186条第2項),②賃貸借契約に基づき占有開始しており賃借の意思に基づくことが客観的に表明されている。また,Cは善意であると推定される(民法186条1項)。

 よって賃貸借開始時から10年が経過した時に賃借権を時効取得し,引渡によって対抗力も付与されているので,Cは,Dに賃借権(使用収益権,民法第601条)を対抗できる。

 なお,時効完成時にDが取得していたか否かはCが対抗要件を具備しておりまた賃借権と所有権が問題となっている本件では,問題とならないと考えられる。

授権行為の取消しと表見代理〈旧司平成3年民法第1問〉

 1 どの表見代理規定を用いることが可能か

 112条(代理権消滅後の表見代理)は、有効に成立した代理権が消滅した後に、代理行為がなされた場合の規定であって、代理行為後に授権行為が取消された場面においては適用できない。

 109条(代理権授与の表示による表見代理)について。たしかに「他人に代理権を与えた旨を表示した」とは、代理権授与の外観を呈する観念の通知を行ったことを意味するにすぎず、これ自体は意思表示ではないから、授権行為が取消されても、観念の通知としての表示行為は残存するとみれば、「表示」を基礎とする同条の表見代理の成立余地があるとも考えられる。しかし、「表示」から生ずる表見代理成立という本人に重大な影響を与える効果を考えると、この「表示」にも意思表示の規定を類推適用する必要があるといえる。また、瑕疵ある意思表示としての授権行為と「表示」とは、通常密接な関連を有することを考慮すると、授権行為の遡及的無効は、「表示」の効力にも影響することを認めてよい。そこで、授権行為の取消しにより、「表示」もまた遡及的に無効となると考える。ただし、委任状を放置するなど「表示」が残存していると評価できる場合には、授権行為の取消原因となった瑕疵の存在を考慮してもなお、本人の帰責性が認められるといえるから、109条の適用を認めることができると考える。

 

 2 表見代理の成立余地

 表見代理とは本来、行為当時無権代理人であった者による代理行為の効果を本人に帰属させるための制度である。

 この前提からすれば、まだ授権行為の取消しがなされていなかった行為当時においては、代理人は有効な代理権を有していたのであって、そもそも表見代理規定の適用の前提を欠いているのではないかとも考えられる。

しかし、〈①:授権行為取消し→代理行為〉のケースにおいては、代理行為時に有効な代理権が存在しなかったがゆえに表見代理による保護の余地があるのに対し、〈②:代理行為→授権行為取消し〉のケースにおいては表見代理による保護の余地を一切認めないというのでは、代理行為と取消しの時間的順序という偶然的要素によって相手方の保護の有無が異なってくることになり、妥当でない。

 

 3 相手方の正当な信頼

 行為当時において有効な代理権を有していた者の代理行為の相手方は、そもそも「他人が代理権を与えられていないことを知り、又は過失によって知らなかった」という事態が観念できず、常に表見代理が成立するのではないかとも考えられる。

都市計画決定の処分性<新司法試験平成24年公法系第2問〔設問1〕>

《出題趣旨》

 設問1は,Q県が都市計画を変更せずに存続させていること(以下,単に「計画の存続」という。)の適法性を争うために,Pがどのような行政訴訟を提起できるかを考える前提として,都市計画決定の処分性を検討させる問題である。全体としては,【資料1】に示された土地区画整理事業の事業計画の決定に処分性を認める大法廷判決の論旨をよく理解した上で,都市計画決定の処分性を判断するためのポイントを押さえること,及び,処分性の判断に関わる都市計画決定の法的効果を,後続する都市計画事業認可の法的効果と関係付け,また比較しながら的確に把握することが求められる。

 個別にいえば,都市計画決定権利制限を受ける土地を具体的に特定すること,都市計画決定土地収用法上の事業認定に代わる都市計画事業認可の前提となること,及び,都市計画が決定されるとその実現に支障が生じないように建築が制限されることを,都市計画法令の諸規定から読み取らなければならない。その際,都市計画決定と都市計画事業認可の関係図書等や法的効果等を比較することを通じて,都市計画決定においては,収用による権利侵害の切迫性が土地区画整理事業の事業計画の決定に伴う換地の切迫性よりは低いことも,併せて考慮することが求められる。大法廷判決が,建築制限について,それ自体として処分性の根拠になるか否かを明言していない点にも,注意を要する。

 そして以上の考察を踏まえて,権利救済の実効性を図るために都市計画決定に処分性を認める必要性について,都市計画事業認可取消訴訟,建築確認申請に対する拒否処分取消訴訟及び都市計画に関する当事者訴訟など他の行政訴訟の可能性及び実効性を考慮して,判断することが求められる。

  最大判平成20年は,「土地区画整理事業計画の決定・公告から生ずる制約効果を『法的効果』と解釈して計画決定の処分性を肯定したのではなく,昭和41年判決が示していた付随的効果論を正面から否定していない」(櫻井=橋本289頁)。したがって,計画決定によって生ずる制約効果は付随的効果にとどまるとはいえないがゆえに処分性を肯定する,という論法で本問計画決定の処分性を肯定することは,平成20年大法廷判決の援用により当然に行い得るものではない。出題趣旨が「大法廷判決が,建築制限について,それ自体として処分性の根拠になるか否かを明言していない」とするのもこの点に留意することを促す意図に出るものであろう。この点については,最判昭和57年4月22日が,用途地域指定により当該地域内で課される建築基準法上の制約は「あたかも新たに右のような制約を課する法令が制定された場合におけるのと同様の当該地域内の不特定多数者に対する一般的抽象的な」ものにすぎないとして計画段階の法律関係を法令制定になぞらえていること(櫻井=橋本288頁)を参考に,付随的効果論(的なもの)を展開し処分性否定方向の議論を展開できるかもしれない。

 最大判平成20年が処分性を肯定したロジックは,①「計画決定について,具体的な権利変換行為(換地処分等)との連動関係に着目し,特定の者の具体的・直接的な法的地位の変動を読み込もうとする」もの,及び②「換地処分をまった上でその取消訴訟を提起するという救済ルートとの対比において,計画決定を抗告訴訟で争う『実効的な権利救済』の必要性」を強調するというものである(櫻井=橋本289頁)。

 ①については,計画決定と事業認可の連動性が,最大判平成20年における事業計画決定と換地処分との間の連動性に比肩する程度のものであるかが問題となる。本件において「都市計画決定土地収用法上の事業認定に代わる都市計画事業認可の前提となること」(出題趣旨)を強調すれば,計画決定と事業認可の連動性を肯定する方向の議論が可能であると考えられる。櫻井=橋本289頁が「平成20年判決は,計画決定と換地処分の手続的連動性につき『一定の限度で具体的に予測』されるとするのみであり,完結型計画であっても,たとえば都市計画決定につきこれを受けた事業計画決定がされる蓋然性が相当程度ある場合に,当該決定の法的規律が具体的・直接的であると解釈可能なケースがあり得る,とも考えられる」とするのは,本件計画決定の処分性を肯定する方向の議論において援用できる発想であるといえよう。一方で,「都市計画決定と都市計画事業認可の関係図書等や法的効果等を比較することを通じて」,「都市計画決定においては,収用による権利侵害の切迫性が土地区画整理事業の事業計画の決定に伴う換地の切迫性よりは低いこと」(出題趣旨)を強調する場合は,連動性を否定する方向の議論につながると考えられる。

 ②については,出題趣旨が「権利救済の実効性を図るために都市計画決定に処分性を認める必要性について,都市計画事業認可取消訴訟,建築確認申請に対する拒否処分取消訴訟及び都市計画に関する当事者訴訟など他の行政訴訟の可能性及び実効性を考慮して,判断することが求められる」として言及を要求する点であると考えられる。最大判平成20年は,換地処分等を受ければその取消訴訟を提起できるとしつつ,そこで事業計画の違法の主張が認められたとしても,事情判決がされる可能性が相当程度あり,権利侵害に対する救済が十分に果たされるとはいい難く,事業計画の適否の争いにつき「実効的な権利救済を図るためには,事業計画の決定がされた段階で,これを対象とした取消訴訟の提起を認めることに合理性がある」とした。したがって,本件においても同様の指摘が可能であれば処分性肯定方向の議論が可能である。一方で,事業認可がなされた時点や建築確認申請に対する拒否処分がなされた時点においてそれぞれの処分に対する取消訴訟を提起することによっても実効的な権利救済の観点から問題がないといえるのであれば,最大判平成20年とは事案を異にし,あえて計画決定の時点で抗告訴訟提起を認めなくてよい,すなわち計画決定の処分性を認めないという議論を展開することが可能となる。

日常家事代理権の範囲

 最判昭和44年12月18日は,「民法761条にいう日常の家事に関する法律行為」の意義について,それが「個々の夫婦がそれぞれの共同生活を営むうえにおいて通常必要な法律行為」を指すことを理由として,「その具体的範囲は,個々の夫婦の社会的地位,職業,資産,収入等によって異なり,また,その夫婦の共同生活の存する地域社会の慣習によっても異なる」とする。
 ここでいう個々の夫婦の社会的地位,職業,資産,収入等,その夫婦の共同生活の損する地域社会の慣習は,いずれも客観的事情である。


 他方で,「同条が夫婦の一方と取引関係に立つ第三者の保護を目的とする規定であること」にかんがみて①「その法律行為をした夫婦の共同生活の内部的な事情やその行為の個別的な目的」のみを重視するのではなく,さらに②「客観的に,その法律行為の種類,性質等」をも考慮して判断すべきとする。

 

〈内在的論理の考察〉

 761条は第三者保護の趣旨を有する。

 そうすると,一方で,保護に値する第三者を保護対象に含めるべき要請が働く。この要請との関係では,①内部的事情・主観的目的が日常家事の範囲を逸脱していたとしても,②行為が客観的に日常家事の範囲に含まれている場合には,②を信頼した第三者を保護すべきことが帰結される。

 他方,保護に値しない第三者は保護対象から除外すべき要請が働く。この要請との関係では,②行為が客観的に日常家事の範囲に含まれていない場合には,たまたま①当該行為が内部的事情・主観的目的において日常家事の範囲に含まれていたとしても,第三者は保護に値する信頼を生じていないといえるから,このような第三者は保護すべきでないことが帰結される。

 ※ただしこの場合においても,第三者が①当該行為が内部的事情・主観的目的において日常家事の範囲に含まれることを知っていた場合には,保護に値する信頼を生じていたといえるのではないか。②は「当該法律行為が客観的に日常家事の範囲となっていた以上は,第三者の保護を図らねばならない」という趣旨の判示であると考えれば,当該法律行為が客観的に日常家事の範囲であることは,第三者保護のための十分条件ではあるものの必要条件ではないことになると考えられるからである。

 ※そもそも,②客観は範囲外だが①主観は範囲内,というような事態が想定しうるのかは疑問である。四宮先生の海外赴任事例のようなものか。

 

 

 この判例からは,日常の家事に関する法律行為に該当するためには,少なくとも,当該法律行為の客観的な種類・性質が,日常家事の範囲内であることを要することは読み取ることができる。(ほんとうにそうか?)

 そのうえで,この判例の枠組みを具体的に解釈・適用するうえでの論点として,次の点が挙げられる。

  • 論点Ⅰ:「法律行為の種類,性質等」として,どのような事情までを読み込むべきか。”客観的に存在する夫婦間の内部事情”は含まれるか。
  • 論点Ⅱ:②行為の客観的な種類・性質は日常家事の範囲内であるが,①内部的事情・行為の個別的目的によって日常家事の範囲外とされることはありうるか。

論点Ⅰ

 客観的事情として考慮されるところの「法律行為の種類,性質等」とは,”客観的に存在する内部事情”(例えば,夫の長期海外赴任中に子が病気にり患し高額の治療費を捻出するために夫所有の不動産を売却する必要が生じているという事情)を含まない(四宮先生の考え方とは異なる)。「日常」の文言にそぐわないし,不動産の処分についてはしたがって,例示のような事情は,「夫婦の共同生活の内部的な事情」にとどまることになる。

 よって,②において「法律行為の種類,性質等」の客観的事情として考慮される事情は,当該取引行為を必要とする事情を含まず,あくまで当該取引行為の類型的な種類・性質のみを含むことになる。

 ※貞友・LIVE旧司民法平成2年第1問解説において言及されている四宮先生の見解は,”客観的に存在する内部事情”をもって当該法律行為が客観的に日常家事の範囲内であることを基礎づける。

 ※相手方が”客観的に存在した内部事情”を知っていた場合には,相手方の信頼が生じていたといえないか?

論点Ⅱ

 当該行為が客観的には日常家事の範囲内である場合,当該行為の相手方においては夫婦の他方にも効果が帰属し,連帯責任を追及できるとの期待が発生する。にもかかわらず,「その法律行為をした夫婦の共同生活の内部的な事情やその行為の個別的な目的」が日常家事の範囲内でないことをもって他方に効果帰属しないとなると,相手方の期待を害する。そこで,客観的に日常家事の範囲内にある場合には,内部事情や主観的目的のいかんにかかわらず,761条により夫婦の他方にも当該法律行為の効果が帰属すると考える(山本先生の見解)。

 ※当該行為が客観的に日常家事の範囲外である場合に,”客観的に存在する内部事情”を主張して相手方が日常家事の範囲内であることを主張することは許されるか。

 

 

盗品又は遺失物の回復

物の所有者による回復請求

 民法193条・194条は、即時取得制度(192条)を前提として、所有者と現占有者との利益調整を図る趣旨を含むと考えられる。したがって、「被害者又は遺失者」には、当該物の所有者が含まれると考える。

 もっとも、即時取得制度が、所有者がある者に対する信頼のもと物の直接占有を移転したところ、192条の要件を満たす第三者に占有が移転した場合に、所有者が当初有していた当該物に対する追及効が切断される結果として、第三者による当該物の所有権の原始取得が生じるものであると考えると、盗難・遺失の場合にはそもそも当初の物の占有移転は所有者の信頼のもとに行われたものではなく、したがって追及効切断の前提を欠くことから、この場合には192条の要件を満たす第三者が当該物の占有を取得して以後においても、盗難・遺失の時から2年を経過するまでは、なお所有権は当初の所有権者に帰属していると考えることができる(貞友・LIVE旧司平成元年第1問解説。結論は大判大正10年7月8日、大判昭和4年12月11日の採るものと同じ)。

 したがって、盗難・遺失のケースにおいては、所有権者は所有権に基づく物権的返還請求権として物の占有を回復することができるから、193条による回復請求を行う実益はないことになる。

 

物の占有者(物を直接盗取された・遺失した者)による回復請求

 民法193条は、回復請求の主体を「被害者又は遺失者」として、所有者に限定していない。また同条は「物の回復」を請求できるとしているが、これは、上述のように盗難・遺失の場合には、192条の要件を満たす第三者が出現しても、なお物の所有者に所有権が残存すると考えられることから、物の所有権は移転していないことを前提として物の占有を回復することを意味すると考えられる。そして、占有の回復に利害を有するのは必ずしも所有権者のみではないことを考えると、同条による回復請求の主体としては物の占有者も含まれることになる。

 

共犯の射程・共犯の錯誤

甲:実行者(強盗の故意)→強盗未遂
乙:謀議関与者(窃盗の故意)

 

1 共謀の内容
窃盗

2 共謀の射程
窃盗を内容とする共謀と、実際の実行行為(強盗未遂)及びその結果との間に心理的因果性があれば、共謀の射程が及ぶ。
→共謀の射程が共謀の内容を超えた場合「共犯の過剰」が生ずることになり、共同正犯の成立範囲が問題となる。

3 共同正犯の成立範囲

【部分的犯罪共同説】→重なり合う窃盗未遂の限度で共同正犯成立
【完全犯罪共同説】→強盗未遂につき共同正犯成立
→共同正犯の客観的成立範囲と、謀議関与者の主観にずれが生じた場合、共犯の錯誤が問題となる。

4 共犯の錯誤

【法定的符合説・罪名と科刑は一致】

共同不法行為

民法719条1項

 数人が共同の不法行為によって他人に損害を加えたときは,各自が連帯してその損害を賠償する責任を負う

 共同行為者のうちいずれの者がその損害を加えたかを知ることができないときも,同様とする。

要件論

 「共同の不法行為」の解釈上,次の点が問題となる。

  • 加害者間に共通もしくは共同の認識のあることは必要か。客観的な関連共同で足りるか。
  • 各加害者の行為と被害者の受けた損害との間に因果関係が認められることを要するか。

関連共同の程度

最判32年3月26日

民法七一九条一項前段の共同の不法行為が成立するためには、不法行為者間に意思の共通(共謀)もしくは「共同の認識」を要せず、単に客観的に権利侵害が共同になされるを以て足りると解すべきである」

  法が709条のほかに719条を設けて被害者保護を図った趣旨から導かれる。

各行為との因果関係

最判昭和43年4月23日

「共同行為者各自の行為が客観的に関連し共同して違法に損害を加えた場合において、各自の行為がそれぞれ独立に不法行為の要件を備えるときは、各自が右違法な加害行為と相当因果関係にある損害についてその賠償の責に任ずべきであ(る。)」

 判例は必ずしも各加害者の行為と損害との間に因果関係を要求するものではないと分析し,通説との両立を示唆するものとして,《山王川事件・再考 - 司法試験対策ノート - Seesaa Wiki(ウィキ)》。

 

貞友・LIVE112頁

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効果論

 共同不法行為が成立する場合の効果,すなわち各加害者の負う責任の内容・求償の可否が問題となる。

  • 「連帯してその損害を賠償する責任」とは,通常の連帯債務か,不真正連帯債務か。
  • 加害者間の求償権は認めらるか。その内容・行使方法はどうなるか。

「連帯」責任の性質

最判昭57年3月4日

民法七一九条所定の共同不法行為者が負担する損害賠償債務は、いわゆる不真正連帯債務であつて連帯債務ではないから、右損害賠償債務については連帯債務に関する同法四三四条の規定は適用されないものと解するのが相当であり(最高裁昭和四三年(オ)第四三一号同四八年二月一六日第二小法廷判決・民集二七巻一号九九頁、最高裁昭和四六年(オ)第一一〇九号同四八年一月三〇日第三小法廷判決・裁判集民事一〇八号一一九頁参照)、右の共同不法行為が行為者の共謀にかかる場合であつても、これと結論を異にすべき理由はない。」

 実質的理由として,絶対的効力事由(437条)の適用排除により,被害者の救済が厚くなる点が挙げられる。理論的理由として,共同不法行為のうち主観的関連共同性がない場合には,債務者相互の関係は希薄であり,絶対的効力事由を適用する基礎が欠ける点が挙げられる(大村・新基本民法6,105頁)

 

求償権

 不真正連帯債務関係は,被害者との関係で,各行為者の負う債務の性質を規律するにとどまり,各行為者間の求償関係について規律するものではない(行為者内部における求償を観念する余地あり)。

 損害の公平な分担,という不法行為制度の趣旨からすれば,各行為者の寄与度に応じて各負担部分を認定し,その負担部分について求償を認めるべきである。

 

 ※求償権の条文上の根拠としては,442条の適用あるいは類推適用ということになるのか?

 ※719条1項後段の場合,加害者間の過失割合の認定は不可能ではないか。それゆえに,過失割合に応じた求償権も観念できないのではないか。