出資の履行の仮装
払込みの有無(仮装性)
最三小判平3・2・28〔会社百選103〕
前記認定によれば、右1ないし3の各払込は、いずれもAの主導の下に行われ、当初から真実の株式の払込みとして会社資金を確保させる意図はなく、名目的な引受人がA自身あるいは他から短期間借り入れた金員をもって単に払込みの外形を整えた後、Aにおいて直ちに右払金を払い戻し、貸付資金捻出のために使用した手形の決済あるいは借入金への代位弁済に充てたものであり、右4の払込みも、同様の意図に基づく仮装の主込みであって、A名義の定期預金債権が成立したとはいえ、これに質権が設定されたため、BがKに対する借入金債務を弁済をしない限り、Aにおいてこれを会社資金として使用することができない状態にあったものであるというのであるから、1ないし4の各払込みは、いずれも株式の払込みとしての効力を有しないものといわなければならない(最高裁昭和三五年(オ)第一一五四号同三八年一二月六日第二小法廷判決・民集一七巻一二号一六三三頁照)。
もっとも、本件の場合、AがFに対する一〇億円及びBに対する五億円の各債権並びに一億円の定期預金債権を有している点で典型的ないわゆる見せ金による払込みの場合とは異なるが、右各債権は、当時実質的には全く名目的な債権であったとみるべきであり、また、右定期預金債権はこれに質権が設定されているところ、BにおいてKに債務を弁債する能力がなかったのであるから、これまたAの実質的な資産であると評価することができないものである。
したがって、公正証書原本不実記載の罪の成立を認めた原判決の判断は正当である。
募集株式の発行等の効力
募集株式の引受人が出資の履行の仮装を行った場合,当該引受人は,当該募集株式について引き続き払込金額の支払義務を負う(会社法213条の2第1項)。この出資の履行をするまでは,株主の権利を行使することはできない(209条2項)。
これは,出資の履行の仮装の場合,外形上は払込みがあることから出資の履行をしない引受人の失権に関する208条5項を適用せず,当該引受人が募集株式の株主になるとしたうえで,引受人は出資の履行をするまでは株主権の行使ができないという,仮装払込み人に対する一種の制裁であると考えることができる*1*2。
したがって,募集株式の発行等は有効であることになる。